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隣の人

作者: 滝川誠




 隣の人は内気な人だ。



 挨拶をしても、恥ずかしそうに俯いて目を合わそうともしない。扉の前で顔を合わせると必ず気まずそうな雰囲気を出して、逃げるように部屋に入る。いい大人なんだから挨拶ぐらい返しなさいよ。





 隣の人はハゲだ。



 頭頂部は綺麗に禿げ上がっているけど、横はまだ残っている。いつも思う。そんな髪型にするぐらいならいっそのこと全部剃ればいいのに。





 隣の人はいつも同じ格好をしている。



 暗い色をしたチェック柄のシャツに、安そうな傷んだジーンズを穿いて、どこのメーカーなのか分からない黒い靴を履いている。いかにもお洒落には無頓着な人で、自分を良く見せようという意識はないように見える。体型も中肉中背といった感じでこれといった特徴はない。暗いおっさんって感じ。





 隣の人はうるさい。



 足音はわざと強く足踏みをしているみたいに大きく聞こえるし、テレビの音はうるさいし、声もでかい。たまに話し声がするけど、その声もうるさくて、お蔭で目が覚める時もある。きっと独り言ばっかり言っているんだろう。迷惑な人だ。





 隣の人は料理をする。



 料理を作る時は必ず玄関の扉を開ける。換気扇だけでは気に食わないみたいで、扉を開放したまま料理をするから音はだだ漏れで、こっちが扉を閉めていてもフライパンを振る音が聞こえるし、匂いも仄かに漂ってくる。その匂いはいつも同じ匂いだった。多分野菜炒めとかだと思う。飽きないのかしら?





 隣の人はよく洗濯をする。



 玄関の外にある洗濯機は、よく朝早くから稼働している。一体何時から動いているの?終了した音が鳴ったと思ったら、すぐに操作音が鳴って、また洗濯が始まる。それを何度か繰り返す。長い時は一日中やっている。一体どれだけ汚れ物があるの?いつも同じ格好のくせに。





 隣の人はちゃんと働いてるみたい。



 仕事に出る時間も、帰宅する時間も、いつも決まった時間だった。いつもあの貧相な格好だから会社勤めではなさそうだ。風貌からして安月給の工場勤めって感じ。





 隣の人の行動は恐ろしく規則的だ。



 仕事に出掛ける時、帰る時は大体が同じ時間だし、帰ったら必ず同じ行動をした。まず扉を開放状態にして、換気扇を動かし、履いた靴に消臭スプレーを吹き散らす。台所の流しで手を洗って豪快なうがいをしたら直ぐに調理を始める。ご飯を食べた後は直ぐに食器を洗い、終わったらやっと扉が閉まる。その後はよく分からないけど、この一連の行動が終わるまで大体が同じ時間だった。一緒に住んでるのを想像するとゾッとする。





 隣の人は風呂が大好きだ。



 毎朝、必ず長い風呂に入る。風呂の時は特にうるさかった。歌う時もあるし、何かセリフみたいな言葉を長々と言っているし、時たま奇声を上げる。楽しそうに聞こえるけど、正直、相当キモい。そろそろ我慢の限界だ。近所の人達は気味悪く思わないのかしら?





 隣の人は極度の人見知りだ。



 まともに目を合わせられないし、ずっとモジモジしている。おっさんがモジモジした姿は見るに堪えない。





 隣の人は友達がいないみたいだ。



 毎日同じ時間に帰ってくるし、休日は買い物以外どこにも出ようとしない。スマホを使う時はあるけど、画面を見てニヤニヤするぐらいだ。家族はいるのかしら?いたとしても、こんな奴は絶対に見放されてる。





 隣の人は強い劣等感を持っている。



 自分に自信が持てないみたいで、声はオドオドしている。やっと本来の表情を垣間見せた時、それは手足を拘束して完全な支配下にしてからだった。そこからは途端に饒舌になって、偉そうにしている。きっと今まで誰も相手してくれなかったんだろう。本当に惨めな人。




 そんな隣の人に誰か早く気づいてください。


 


 そして私を助けてください。




 


               おしまい

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