エピローグ
「ラルフさん、ようこそおいで下さった」
「芝居掛かった話し方はやめろ。前のシルビアはそんなんだったか?」
ラルフは、呆れ顔でそう言った。そんなんと言われても、私はシルビアに会った事がないのだ。どんなんだったかなど皆目検討もつかない。
「しかし、あれから十年たっても疑われてはいませんな」
「不思議でならんが、確かに事実だ」
十年。
シルビアが組織に消されてから、十年もの月日が流れた。あの日の事実を知る者はほとんどおらず、世間的には私がシルビアだという事になっている。
顔を隠していたのをいい事に、そのマスクの下は初めから私だったのだという事としたのだ。今のところ、疑われた事はない。
イチと呼ばれていた少女は、その時からいなくなってしまった。誰も心配などしないだろう。数少ない心配してくれそうな相手が、すぐ真隣にいるのだから。
「今日はなんのご用ですかな?」
「爺さん、中々強かになったじゃねえの」
「これでも『冷血なシルバス』と呼ばれて恐れられておりますので」
ラルフは六年ほど前、当時の支部長が本部に取り立てられた際にその後釜の地位を得た。ギドという同期のライバルがいたはずだが、これまでの実績と私の推薦によってラルフが選ばれたのだ。
やはり、侮れない人だ。
私を区画長の地位へ押し上げたのも、区画長を自らの傀儡にするためだったのだ。これにより、ラルフは他のどの支部長よりも大きな力を持っている事となる。
「今日は様子を見にきただけだ。ちょうどゲームをやっているみたいだったしな。あと、今月の報告を聞こうと」
「ゲームはいつも通りだったでしょう? つまんない相手と、つまんない事してただけだよ。報告はシルバスから聞いてね」
「投げますな、相変わらず」
シルバスは笑みの中に少し苦そうなものを滲ませるが、文句は言わない。旧大地で育った私には学というものがないので、結局最終的なところはシルバスにやってもらうのが最も効率がいい。一応書類の処理はできるようになったが、それでも最初と最後に必ずシルバスのチェックが入る。
だから、私はゲームがしたい。自分が最も得意な事が、それであるとわかっているからだ。
「ねえ、ラルフさん」
「なんだ?」
シルバスとの話に割り込まれたラルフは、わずかに厳しい顔をする。しかし、怒ったりはしない。いつもそうなのだ。意外と優しいところがある。
「私、暇だよ。何か面白いゲームはないの? 前みたいに。あの時みたいに」
「中毒者め。そうそうあんな事件があってたまるか」
「それもそうだよねえ」
それでも望む。私は望む。
この極寒が支配する暗闇に。
この百年前に棄てられた古き大地に。
どうしようもなく望んでしまう。
賭す事を、賭される事を、望んでしまう。
「あぁ、何か面白い事ないかなあ」
だから私は今日も想う。
空から、あの真っ暗な空から、何か楽しい事が降ってはこないかと。




