組織13
別に、難しい事をしたわけではない。
実のところ、区画長シルビアが本を持っているというのは、有名な話だったのだ。おそらく買い付けの時に情報が漏れたのだろう。表層大地よりもはるかに狭いこの界隈では、噂はあっという間に広がる。
俺は、カマをかけただけだ。
持っている事は知っていたので、それを出すように促しただけ。自分で出すと言わなければ、こちら側から催促していた。
あとは、調べるふりをして発信機を取り付けるだけ。ごく単純な仕掛け。大した事はない。
発信機の入手も、苦労せずに済ませられた。二人が金庫区に侵入した段階で、三つのうち二つの発信機を外しておいたのだ。
その片方をイチが持ち、もう片方を爺さんが持つ。尋問の際にイチから発信機を一つ受け取り、爺さんは発信機の付いていない本と発信機自体を持ってシルビアに挑戦する。
そして、イチと爺さんは本を一冊ずつ持つ。余った本は、その場で焼いてしまえば隠滅できる。
爺さんが勝負を仕掛けたのも、話をスムーズに進めるために過ぎない。
勘のいいシルビアは、爺さんが侵入者であるとすぐに気がついた。そうして俺を招き入れたがために、いざ違うとなって引っ込みがつかなくなったのだ。
そして、部屋からは発信機付きの本が出る。
それが事実であるか否であるかにかかわらず、シルビア失脚には充分なのである。
「あの女の始末は任せたぞ」
「あぁ、二度と俺たちの前には現れないさ」
随分と気分良さそうに、ギドが答える。今回はほとんど俺が動いていたから、歯痒い思いをしたのだろう。ともあれ、ギドに任せておけば安心だ。シルビアは、俺たちの前どころかこの第十四区画に入る事すらできない。
あとは、適当なタイミングで爺さんと合流し、爺さんが持っている発信機を再度本に付け直して回収品に混ぜるだけだ。シルビアの所持品であると報告しておけば、どうせ誰にも偽りであるなどとわかるはずもない。
「しかしよ、区画長が不在となれば混乱は大きいぜ。面倒な事になっちまうな」
「あぁ、それに付いては考えがある。支部長にも報告済みだ」
「ほう?」
シルビアは、これまで顔を隠して活動していた。その素顔を知るのは、精々がアルという側近を含めた数名のみだ。その数名も、今回の事態を受けて処分された。
つまり、シルビアの顔は誰も知らない。
厳密には俺とギドを含めた組織の人間には何人か知っている人間もいるが、それは考えなくてもいいだろう。
「新しく区画長を立てても全然混乱が起こらない方法が、一個だけあるんだよ」
そう、全くもって混乱などなく、まるでシルビアが継続して区画長をしているに等しいほど穏やかな方法。
たった一つだけだが、確かにあるのだ。




