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区画長13

 本は、私の部屋に隠されている。

 寝具に寝そべった状態から手に取りやすい位置に隠し空間があり、手で押す事によって開く仕組みになっているのだ。毎晩、その本を読み返すのが日課である。


「これよ」


 先ほどのお爺さんが持っていた本と比べると、やや痛んでいるように思う。毎晩読んでいるのだから当然の事だが、私はこっちの方が好みだった。

 まるで共に成長した兄弟のような、苦難を乗り越えた友のような、そんな不思議な感情を覚える。


 内容は、ありがちな恋愛小説。似たような話が数百はありそうなスタンダードなものだが、それでも私には宝物だった。ありがちなヒロインに感情移入して涙を流したし、ありがちな王子様キャラに心を躍らせた。クライマックスのキスシーンでは、読むたびに年甲斐もなくときめいてしまう。

 そんな時間は、値段以上の価値を持っていると思っている。


「ほほう、これがね」


 ラルフが本を観察する。軽率に手に取り、軽はずみに弄ぶ。


「やめて頂戴。調べるだけで、そんな事する必要はないでしょ」


 棘のある言い方になったが、言い改めるつもりはない。必要もないと思っていた。何よりも、私の本心だ。


「さっさと調べて、さっさと帰って。私も暇ってわけじゃあないのよ」


 無実の証明がこれで充分なのだとすれば、彼らはこの場に用はない。私はこの後も仕事があるし、早いうちに組織へ苦情を入れなければならない。

 私たちはあくまで対等の関係。

 貸しと借りによる差はあっても、無礼が許される関係性ではない。


 しかし、なんとも不思議な事だろうか。またしても、私はあり得ざる状況に置かれたのだ。


「発信機だ。受信機が反応してる」


「……は?」


 私は間の抜けた声を出す。思わずだ。意図せずに、そんな声を出してしまった。見ると、私の後ろに追従するアルも口を開けていた。基本的に冷静なアルが、そんな反応を見せるような事態であるという事だ。


「そんなはずない。これは私の持ち物だし、何年も前からこの寝室を出てすらいないのよ? なんで発信機なんて付いてるのよ」


「その証言が、まるっきり嘘だという事だろう。事実はこの場にあり、証明は完了した。これは組織にも報告する」


 何が起こったのか。どうしてこんな事となっているのか。

 私には、全く分からなかった。


 たった一つだけハッキリと言えるのは、私は今、失脚したのだという事のみである。

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