区画長12
「これが、押収品です。一つ残らず、これで全てです」
「手間をかける」
つまらない事だ。どうせ、さっき持ち込んだ物を取り出すだけ。どうしても目立つので、他の品と紛れてはいなかった。
ラルフは、見慣れない装置をかざして何かを調べている。何をしているのかはよく分からないが、それで組織からの窃盗犯なのか判別できるのだろう。
もしかしたら、今日はついていたのかもしれない。
全くのノーマークだった老人に不正を看破されてなお、その老人を奴隷として囲えなくてなお、組織に身柄を明渡せなくてなお、それでも私は幸運のように思えてならない。
私と組織が上下関係のない対等の関係であるとしても、その間の発言力までも常に対等という事にはならない。
持っている情報、貢献、貸し、借り、様々な要因をもってして、対等は対等ではなくなる。
そんなぬるい関係性だと、そう思うだろうか。
いや、これはむしろ酷くシビアな駆け引きだ。人間である限り決して切り離せない感情などという不確かなものは、それでいて全ての人間に統一的な対応を取る事を許さない。
目に見えぬものが、時として金銭以上に人間の心を縛る。
人間同士の駆け引きとは、つまりそういうものだ。
そして、今この時は大きな貸しに相違ない。
彼らの財産は、私によって取り戻された。
今すぐ様に明確な違いは出なくとも、彼らの私に対する扱いが少しずつ変化する。
それは“いずれ”などという気の長い話であるものの、決して無視していいような要素ではないのだ。
……しかし、私の思惑は呆気なく外れる事となってしまう。
「違うな」
たった一言、その言葉によって。
「は?」
「これは組織から盗まれた物じゃあない」
ラルフは肩を竦める。あり得ない事態に遭遇した私とは対照的に、随分と落ち着いた様子である。
「いやいや、そんなはずないわ。これで全部なのよね?」
「間違いありません。あの老人が持っていた物の全てはこの場にあります」
「なら、その老人ってのは侵入者じゃないって事だろう」
何かが、おかしい。
今、私はただ思い違ったというだけのはずだ。何も、断じて、決して慌てるような状況ではない。勘違いだったのなら、あぁそうですか、というだけで終わるような状況だ。
だというのに。
何か、おかしい。
ラルフの目付きは、心なしかいつもより鋭く思える。部下たちに「ここには犯人はいないから別の場所をあたろう」と指示を出さないのも不自然だ。
明らかにこの場に居座るつもりであり、当然それにはなんらかの思惑がある。
それが、不気味でたまらない。
「アイツが侵入者じゃないとして、なぜ本なんていう希少品を持っているの? ただの老人にしては不自然だわ!」
「俺が知りたいのは、犯人は誰かという事だけだ。お前が戦った老人が誰かなんて知らん」
「それは……そうだけど……」
「良いか? 俺は確かな根拠を持ってここに来ている。受信機がこの屋敷の中を指し示しているんだ。盗まれた物は、必ずかの中にある」
そうは言われても、私に思い当たる節などない。とはいえ、私が正直に話だからと言って引き下がるような相手でもないだろう。ならば、私もある程度の根拠を示さなくてはならない。何か、納得がいくような根拠を。
「盗まれたのは何なの? この屋敷にある物の中で、組織から不当に手に入れた物なんて一つもないわ」
「本だ。三冊あるうちの二冊が行方不明となっている」
本。やはり、本。
ならば、包み隠さず全てをつまびらかにすれば証明となるだろうか。
「本なら、一冊だけ持っているわ。私個人の愛読書。それが組織の物でないと分かれば、少しは信じてもらえるかしら?」
本は希少であるため、金を積んだからといって簡単に手に入るような物ではない。個人でそれを所持している者など、ほとんどいない事だろう。そもそも三冊も所持している組織が異常なのだ。ならば、私が所持している一冊が違うと分かれば、それはある程度の証明となる。
「良いだろう。確かに良い考えだ。二冊目を持っている事よりも、無実である方がよっぽど可能性のある」
疑われるのは嫌いだ。
本は誰にも見せたくない秘蔵の品ではあるが、それで無実を証明できるのなら見せるくらいは良いだろう。




