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区画長11

 ラルフと会うにあたり、私には相応の準備が必要だった。とはいっても、顔を隠すだけなのだが。


 部屋を移動して仮面を被るだけの時間、アルにラルフの相手をしてもらった。

 いつも高圧的な二人ではあるが、頭が悪いわけではないのでおかしな諍いにはならないだろう。


 そう思って頼んだのだが、結構険悪に入室してきた。


「まさか貴様が支部長の代理か。ずいぶん偉くなったものだ」


「お前に先見の明がなかっただけだろ。今までの俺に対する無礼は特別に許してやるよ」


 いい大人が、互いを睨みつけながら歩いている。眉間を押さえたくて仕方がないが、仮面を付けていてはそうもいかない。


「いいから座りなさい。早くお話ししたいわ」


 あたりに呆れ、ため息混じりに指示をする。アルは不快感を隠しもしないが、ラルフはまるで勝ち誇ったような表情だ。

 ともあれ、とりあえず言い返してきたりはしなかった。


「で、何の用かしら?」


「あぁ、そうそう。うちの施設に入り込んだ賊がここに来ているらしいからな。そのために調査をさせてもらおうかと思って」


「賊? ずいぶん度胸のある人なのね」


 この旧大地に暮らす以上、手を出してはならない相手というものは子供でも知っている。分からない相手はたった二通り。それが分からないほどに愚かであるか、地下送りから間もない新顔であるか。

 どちらにしても、この屋敷にはいない。


 ……いや?


「思い当たりはないか?」


「……思い当たりは、確かにあるわね」


 そう、思えば当然の事だ。挑戦のために本などという希少品を持ち込んだ時点で、怪しいと思うべきだった。あの本自体が、すでに窃盗品だったのだろう。まさか、組織に侵入するなどとは思わなかったため、すっかり意識から抜け落ちてしまっていた。

 本なんて組織と、あとは密かに私くらいしかもっていないのだから。


「さっきまでいた挑戦者のお爺さんが、もしかしたらそうかもしれないわね。その時の戦利品なら、もう金庫室に入れてしまっていると思うわ」


「あぁ、あの無礼者ですか。道理で随分高価な物を持っているわけですね」


「ほほう、それは興味深い」


 アルは、まだ言葉に棘がある。それほどに、腹を立てているのだろう。仕方のないやつだと思う反面、嬉しくも思う。

 ただまあ、また喧嘩されてはたまらないというのも事実である。


「案内しましょう。シラミ潰しに探すより、どこの何がそうなのか分かっている私たちがいた方が都合が良いでしょう」


 こんな事ならば、あのお爺さんをつまみ出すのは得策ではなかった。しかし、取り敢えずは簡単に対処できる程度の事で安心した。


 この時、ラルフの笑みの不気味さに気付けていたなら、傘ある程度はマシな結末になっていたのだろうか。

 いや、すでに手遅れであった気がしてならない。

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