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不確かな行為

 相も変わらず余裕ぶった、ニヤニヤとした顔でこちらをこちらに向ける。

 何とも腹立たしい、私を見下す視線だ。


「次はお前だぞ」


 二人合わせて五回目の番。早くも半分を切った。わずか数分のうちに、この勝負は終了する。

 どのコップが“当たり”なのか、わかっていて負けるはずがない。どれほどの自信を持っていようと、その事実は覆らない。今に、人を食ったようなその態度は崩れて死ぬ事になる。


 そして、その時はすぐに訪れた。


「…………」


 シルビアが、私の指紋のついたコップに手をかけたのだ。

 勝利だ。数分はおろか、数秒のうちに決する。瞬くうちに、シルビアは喉を掻きむしって絶命するだろう。


 金属を溶解させるような液体を喉に通し、人体に影響がないわけはない。ガラスだけを溶かさない物質は知っているが、喉まで溶かさずに金属だけを溶かすとなると想像できない。

 口の中は焼け爛れ、皮がめくれ肉が露出する。ともすれば、骨にまで達するかもしれない。溶けた血肉が口内で癒着し、二度と口を開く事ができなくなる。食道から胃にかけても同じように焼け、ドロドロに溶けた自らの肉で詰まってしまう事だろう。


 あまりグロテスクなものは見たくないなと、そんな他人事のように事を考えた。勝利を確信していたからだ。確信、()()()()()()からだ。


「っ…………」


 コトンっと、空のコップが机に置かれた。老紳士がそれを回収し、麻袋の中に片付けた。


 こめかみと、あとは眉間と目尻と奥歯のあたりに力みを感じる。動揺を悟られぬために取り繕うのは、それなりの意識を要求された。


 シルビアは、変わらぬ腹立たしい顔で私に笑いかける。


「半分を切ったね。コップはあと四つ。勝負が終わるまであと四つ。私が大手を振ってここから出るまであと四つ。どうぞ飲んでくれよ。もしかしたらもう、お腹いっぱいかもしれないけれど」


 手詰まり、だろうか。

 何が起こったのか皆目見当もつかないが、ともかく事態は私の思惑を外れてしまった。


 目の前には、正体不明の四つのコップ。その中の一つは硬質な金属を溶かす液体であり、私の番はあと二回残っている。

 先ほど想像されたシルビアの死に様が、今度は自分に置き換わる。


 冗談ではない。

 しかし、降参した私を見下すシルビアを見るのは、それ以上の屈辱だ。


「どうした、飲まないのか?」


 その言葉が、決め手となった。

 たかだか四分の一。命を賭けるには高すぎる確率ではあるものの、降参などという選択肢は存在していない。

 私を軽んじる小娘を前に、後ずさる選択などできようか。相手がにじり寄るというならば、こちらは相手を倍するほどに詰め寄る必要がある。

 勝負とはそういうものだ。


 私は、手を伸ばす。無作為に、どれを選ぶわけでもなくコップを手にした。

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