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区画長5

 まずい……このままでは、あるいは負けてしまうかもしれない。


 正直なところ、主人はこのゲームが得意ではない。というよりも、そもそも読み合いのゲームが得意ではない。私は何回か遊んだ経験があるが、ただの一回も負けた事はなかった。


 この勝負自体は、何一つ疑うべくもなくフェアなものだ。物言いはできない。

 真っ当な勝負で、果たして主人は勝てるだろうか。


「何をしてるの、早くなさい」


 私の心労も知らずに、随分と自信満々な主人が急かしてきた。これはダメかもしれない。主人は、負ける時はいつも自信満々だ。


「……では、両者選択が終わりましたようなので」


 奴隷の男が、二人のカードを回収する。私はその間待っているだけなので、どうにも歯がゆく焦れったい時間だ。たとえそれがほんの十数秒間であっても、私の心根ははやってしまう。


 主人は、決して無能な女性ではない。むしろ、とても知的で人の上に立つ才能に溢れた人物であるとすら思う。

 住民間にわざと大きな身分差を作り、差別というものを誘発した。これは、一定層の満足度を維持するための政策だ。古い時代には様々な独裁国家が行ってきた方法であり、高度な政治的判断によるものである。

 それでいて、搾取の程度も理想的だ。

 生かさず殺さずをこれほどうまく体現するのは、生半な人物にはできないだろう。弱者は苦しい苦しいと文句を言いつつも、主人に楯突こうという意思は芽生えていないのだった。

 事実、この旧大地に二十ある管理区画の中で、最も安定した管理をなしているのがこの十四区画である。私はほとんどこの区画を出た事がないが、他の区画は旧時代の途上国のような有様なのだという。


 やはり、主人は素晴らしい人物だ。

 私を始め、主人に仕える多くの人間もそう思っている。彼女は人の才気を見抜く術に長けており、私自身もその慧眼に適って取り立てられたのだ。人の上に立つ者の中で、彼女よりも適している人物を私は知らない。


 それだけに惜しい。

 主人の不敗は、その絶対的立場の(かなめ)なのだ。当人が絶対的な実力者でないという事の、いわばカモフラージュ。そのカリスマによって多くの物事を円滑に進めているとはいえ、民衆の中にはそれで納得しない愚か者もいるのだ。

 今まで絶対であったこの立場が、ともすれば崩れてしまう。


 できる事なら、負けてはならない。

 念じる程度で思いが届くはずなどないというのに、私はまるでそうすれば願いが叶うかのように祈っていた。身振りも、手振りも伴わず、カードを手にする奴隷の男を睨んでしまう。


 そして当然、通じるはずもない。


 シルビアのカードは『4』


 対する相手のカードは『6』


 相手に6を使わせたと言えなくもないが、不利な滑り出しというのが正直なところだろう。

 やはり、主人は勝負弱い。


 だが、光明は見えた。

 ともかく、主人には勝ってもらわなくてはならない。

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