区画長2
「間も無く準備も終える。それまでここで待て」
通されたのは、やはり見覚えのある部屋。ほとんど暗がりだが、何もない広さだけは感じる。しかし実際には、三つの部屋の隔たりが透明であるためにそのように感じるのだと私は知っている。
前回来た時も、私はこの場所に通されたのだから。
アルは、前回と同様に部屋を出て行った。準備のためなのだろう。
「シルビア・オードクスさん」
「……何かしら?」
やはり、シルビアはすでにそこにいた。暗がりの奥に感じる気配。目を細めてようやく微かに影を捉えられるかという程度だが、そこには黒い天蓋付きのベッドがある。その内側から、この旧大地の支配者の声がしているのだ。
「忙しいところすみません。どうしても今でなくてはならなかったものでして」
「別に気にする事はないわ。でも、与えられるチャンスはこれっきりだと理解する事ね」
「えぇ、それはもう」
区画長シルビアの娯楽好きは、町でも有名な話だった。彼女の欲求は地下に送られてきた者の選別だけでは満たされず、それ故に挑戦したいという人間の申し出を受け入れているのだ。しかし当然、それもリスクなしとはいかない。シルビアはもしも敗北した場合は高待遇での永住権を約束する事で挑戦者を募っているが、そのために勝利した場合の条件も提示している。
現在よりもさらに低い地位へ落とされてしまうのだ。そしてその際、あらゆる私物は没収となる。
彼女の下で働く奴隷は、そのようにして増えていく。
故に、これは決してしくじる事ができない勝負。
「しかし区画長。私は、ただありがちな勝負をしに来たわけではないのです」
「……ほう、ならそれは一体どんな?」
そう、ただの待遇改善であるならば、ラルフが私たちに協力を仰ぐはずなどない。何よりも、組織の支部に忍び込む事自体が無意味だ。
必要だったのだ。組織が持つ大量の資金が。そしてそれは単なる金額でなく、希少であるが故の付加価値を見出せる物だ。ただの金額であったならば、区画長であるシルビア・オードクスはどれほど積まれようとも大した意味を見出さないだろう。
「私の命に足しまして、さらにこれを賭けましょう」
だから、紙製の本。この旧大地において、これ以上の物はそうそうないだろうという希少品だ。私の懐から出された予想外のお宝に、シルビアはどうやら驚いたらしかった。
とはいっても、顔を伺う事はできないのだが。
「……なるほど、それは確かにすごい。しかし果たして、貴方は何を望むというの?」
条件を上乗せした以上、それだけで終わるはずなどあるはずもない。シルビアはそれを分かっている。
話が早くてとても助かる。
「貴女の地位を」
「いいわ、受けましょう」
そう、話が早くて、とても助かる。




