組織9
ようやく、逃げ出せる。
ラルフが間者だからといって、逃げ出す事は簡単ではない。部下全員に対してつまびらかに作戦の全容を話すわけにもいかず、そのために一から十までの協力は得られない。
だが、それでも手がないわけではない。ラルフの部下を、事実を伝えないままに思うような行動をとらせる手段は確かにある。
私が、ラルフの部下として振る舞うのだ。
どうせ、組織の人間の顔など全員を覚えているわけがないのだ。イチと二人で歩いている時に見咎められなかったように、私も一人で堂々と行動すれば疑われやしない。なにせ、侵入者の情報は二人組なのだから。
そのために、イチは囮になってくれている。
あちらこちらで程よく見つかり、警備を撹乱する。その隙に、私はラルフと合流ができた。勝手がわからずに手持ち無沙汰になってしまっては不振なので、ラルフの後ろについて回っていたのだ。ギドと呼ばれたこの支部の管理者らしい男も、まさか真隣に侵入者が隠れもせず立っているなどとは思いもしなかっただろう。
そして爆発。
正直のところ上手くいくかは賭けだったが、幸い上手くいってくれた。もしもあれがなかったならば、もう少し慎重に行動しなくてはならなかっただろう。それは時間もかかるし、その間逃げ続けなくてはならないイチにかかる負担も多くなってしまう。
あの爆発があったから、人手不足の状況を作り出す事ができたのだ。そうする事で、私は自然に捜索に加わる事ができる。
あとは、外の見張りをしてくると言ってそのまま逃げ出せばいいだけだ。思いがけないタイミングで支部長本人と対面してしまったが、しかし怪しまれる事なく脱出には成功した。
ここからは、時間との勝負だ。
イチが見つかるまでの間に、私が目的を達成できるか否か。ラルフがいるので滅多な事にはならないだろうが、それでも心配はする。
なによりも、イチは私のために身の危険を顧みないようなタイプではない。仮に見つかってしまった場合、私の所在を聞かれればすぐにでも答えてしまうだろう。
だから、これは時間との勝負。
イチが見つかるまでに目的を達成できなければ、私の身が危ない。正直のところ、イチの事は心配いらないと思っている。
——そして、そうこうしているうちに目的地だ。
「開けてください!! 開けて!」
場所は逃げてきた支部からほど近い町の中心部。明かりさえ充分にあれば、誰だって辿り着けるような場所。ここら一帯は、この場所を中心に回っていると言っていい。
そして、私が一度訪れた場所。私が無様に負けた場所。ある意味では、全てが始まった場所。
第十四区画長シルビア・オードクスの邸宅である。
「挑戦しに来た! 応答されたし! 私は、区画長に挑戦しに来た!」




