組織6
「状況だ! 状況を報告しろ!!」
ギドがパイプに叫ぶ。叫んだところで、相手には聞き取れないだろうとしてもだ。その場で何が起こったのかと呆然としている事など、支部長代理という立場が許しはしない。
「…………っ……ぁ……」
「ぁ……ぁ……っ…………」
次々と、返事が来る。いや、返事などではない。これは、訓練の賜物だ。ギドが何を言わなかったとしても、この報告は挙げられていたに違いない。
この情報統制を行う上で、必要と思われる事はすべて教育しているからだ。ギドの部下の中に、パイプからの音によってなんらかの異常を感知した際に、自らが区画が無事である事を報告しない者などいない。
「よし、よし! 西区域は全て異常なし。まあ、自分がいる場所爆破するバカはそういないか。東は1と12の報告がまだだが、確かそこは今人員がいないはずだ……」
ブツブツと、早口で、ギドは情報を処理していく。一体どこでどのような異常があったのか、迅速に把握する必要がある。
どこからの報告が上がっていないのか。いったいどこで何が起きたのか。考え、考え、あたりをつける。
しかし、その心配はなかった。次の瞬間に、解決された。
「…………」
ギドが、パイプを凝視する。目を見開き、信じられないという表情をする。
「どうした?」
ラルフが、笑みを崩さずに問いかける。何が起こったのかなど知っているのだが、そんな事はおくびにも出さない。歪んでしまう口元をさりげなく手で覆い、あたかも心配しているかのように取り繕う。白々しくもあるが、しかしそれでいて誰も疑いはしない。それほどまでに、ラルフは信用のある人物なのだ。
「金庫区……」
「なんだって?」
「金庫区が……やられた」
ギドの声は震える。本当なら疑ってしまいたくなるような報告に、頭を抱えているのだ。
パイプからは、「金庫区で被害を確認」と発せられた。そしてその声は、先ほどこの場から伝達のために駆けていった部下のものに相違ない。例えば、侵入者が情報の混乱を狙って部下になりすましているわけではないという事だ。ギドは部下の声まで全て把握しているような超人ではないが、それでもつい先ほど耳にした声くらいは覚えてる。
「やつら、金庫を爆破しやがった……」
侵入者が金庫区へ入り込んでいた事は、すでに把握していた。そもそも、金庫区の扉が開けられた事によって作動したセンサーが、彼らの存在を知らせたのだから。だから、ごく少数の人員を金庫区へと向かわせた。ともすれば、今だにそこへ潜んでいるかもしれないと思ったからだ。
しかし、まさか爆破してしまうなどと。そんな事を思うはずもない。身軽に潜むべき侵入者が、まさか爆発物など持っているはずもないはずだからだ。そんな物、本来必要でないはずなのだから。
「ふざけやがって!」
パイプからは、さらに細かい報告があげられる。意識がある者はなく、すぐに手当が必要だ。そのために人員を割く必要がある事を思えば、捜索に与えられる影響は決して少なくない。そこまで考えての事ならば、これは非道にしてとんでもなく理に適った策だ。およそ人道からは遠く離れていながら、仲間を捨て置く事ができない人情を深く理解している者の所業。
ギドは、ほんの僅かに寒からしめられた。
ただのガキ連れに。彼はそう思っているが、ここまでの策は背後で密かに笑っている男の考えであった。
「手伝うか? 一人では手に余るだろう」
「いや、支部長に連絡だ……!!」
ここまで、ラルフの計画通りである。




