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組織5

 急ぐ必要はない。どうせ、この建物から逃げられはしないのだから。


「おい、こっちに来てくれ!」


 案の定、声が聞こえる。誰かが見つけてしまったのだ。思ったよりも随分と器用に逃げているが、それも所詮はこんな程度。どうやってこの建物の構造を把握しているのかはわからないが、それも捕まえた後にゆっくりと聞けば解決する。


「やっば……!!」


 男たちの怒号の中に、愛らしいそんな声が紛れる。子供のものだ。それも少女の。侵入者であるとみて間違いはない。


「急げ!」


 ギドは、思わず怒鳴りつける。その声は拡声機で建物内に響き渡る。

 旧大地の熱技術では、電話や無線の再現はできなかった。そのため、この建物はその内部にパイプを通す事によって連絡機構として活用している。そのパイプに対して声を出せば、パイプの先にいる人物へと声が届くという寸法である。

 アナログな方法ではあるが、これが結構役にたつ。


 パイプを通じて、ギドは建物の中の状況を把握する。多くの音を聞き分け、部下からあげられる情報を照らし合わせながら判断するのだ。これはラルフにもできないギドの特技であり、彼が支部長代理を任される所以でもある。


「間も無く報告がくる。ガキの居場所はそれで丸裸だ」


「っ…………」


 本来ならば、パイプは必要箇所以外は閉じて置くものだ。雑音が入れば、本当に聞きたい情報が分からなかくなってしまうからだ。事実、ギドの隣にいるラルフには聞き取れなかった。

 しかしギドならばその心配はない。建物内のすべてのパイプを開き、すべての情報を正確に読み取る。


「全員に報告だ! 西のAに侵入者!!」


「了解しました!!」


 下っ端が一人、大急ぎで駆けて行った。このによる情報収集は確かに優れているが、しかしギドの指示を迅速に飛ばせないという欠点があった。本来その用途として使われるパイプは、建物内のすべての音を集めてしまっているのだから。

 なので、ギドから指令を出す時はこのように人員を直接走らせる必要があるのだ。今しがた走って行った彼は、建物のいたるところを駆け回って指令を伝える。見当違いの場所を探している者も、金庫室の被害状況を確認しに行った者も、その全員にだ。


「どうだよラルフ。ただの子連れを捕まえるのに支部長に報告なんていらねぇだろうが。俺たちはさっさと始末して、いつもの通りの仕事に戻るだけだ」


「落とし前だけつけさせてな」


「そうだ。始末を終えねぇと始末に負えんわけだからな」


「支部長は厳しいお人だ。特に今は気が立ってる」


「誰のせいだと思ってんだよ。おめぇの管理区域で起きた問題が原因だぞ」


 ラルフが管理する区域のカジノで起きた問題は、もうこの支部の全員が知っている。ラルフの対応がもっと早ければ、一般人に舐めた態度は取られなかっただろうと、それはこの支部ほとんどの共通認識だ。

 しかし、ラルフはあっけらかんとしている。上司に対する敬いなど、微塵も感じられない。


「カジノを仕切っていたのは支部長だ。管理しきれないほどカジノを増やしたのも、そのせいであんな木っ端を雇う必要が出てしまったのも、何一つ俺のせいじゃあないな」


「相変わらず生意気なやつだ。支部長がお前の首を飛ばしてしまうのも時間の問題だろうよ」


 この場合、首を飛ばすというのは比喩表現ではない。文字通り、首を切断して頭部を飛ばしてしまうという事だ。ただ、ラルフはそんな言葉を気にした様子もない。


 辛辣な言葉が飛び交うが、これはいつもの調子だ。

 互いに相手を好いているわけではないものの、それでいて嫌ってもいない。ほとんど似たような時期に地下へと送られてきた二人は、もう五年近くにもなる付き合いだった。

 それほどの付き合い。だがしかし、その程度の付き合いだった。


 現に、ギドはラルフが侵入者を引き入れた事を知らない。


 ——ッ!!


 不意に、思わず、二人の耳に飛び込んできたのは、連絡用のパイプから聞こえる轟音だった。その他のすべての雑音を掻き消してしまうような、暴力的な衝撃を伴う音。ギドですら、それがなんなのか困惑するほどのものだ。


「どこかが爆発したか?」


 ラルフが発するそんな呑気な言葉に、苛立っているような余裕はなかった。

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