組織3
場所は、最奥よりもやや手前。
この旧大地において、ともすれば最も価値のある宝が眠る場所だ。
私たちは、その宝を手にする事を目的としている。
「間違いない?」
「場所は、確かに」
見張りの一人もいない事を、慢心ととるか自信ととるか。いや、むしろ当然の事か。家の金庫の前にわざわざ見張りを立てる者など、表層大地にいた時から見た事がない。
この部屋の鍵は、すでにラルフから受け取っている。わざわざ大袈裟に包帯なんか巻いていたのはこのためだ。その下には、一枚のカードキーが隠されている。
なんとも高度な技術だ。これもまた熱エネルギーによる管理なのだというのだから感服する。イチのように生まれた時からこの旧大地で生活している者には分からないだろう常識の乖離を、私は今感じている。
なんと多彩な技術なのだろうか。表層では何百年も前から電気が主だったエネルギーとして活躍しているが、熱エネルギーとはその電気にも劣らないほど旧大地の生活に根付いている。
しかし、かざすだけで反応を見せる様は、まるっきり表層のそれと同じだ。全く違う技術を使っているのに似たような物が多いというのは、これがどこからともなく現れた技術などではないとの証明にも思える。
きっと、この技術の開発によってよく知られた物を再現したのだろう。新たな物を発想するよりも、その方がよっぽど楽だったはずだ。
随分と滑らかな動きで、硬く厚く重そうな扉は開いていった。内開きでも外開きでもなく、扉がスライドする形で開く。内側には荷物が積まれており、外側は狭い廊下だからだろう。
「急いで。流石に無許可で金庫室に入るのは言い訳できないよ」
「分かっていますよ。それに、どちらにせよすぐ来てしまうでしょうからね」
先ほどまではただ歩いているだけだったが、流石に金庫室に入ろうという輩は不審に思うだろう。さらには、扉には開閉を知らせるセンサーが付いている。私たちの侵入は、もうすでに知られてしまっているのだ。
金庫の中はやや湿っぽく感じるが、それも納められている物も事を考えてだ。極寒に伴ってほとんど湿度のないこの旧大地では、それを原因として劣化してしまう物も多くある。紙幣が完全に廃れたのも、ともすればそのような理由によるものかもしれない。
ほどよく、適度に、乾かず、湿らず。
なにせ、この場所にある物は非常に脆い。
それこそが、かつて人間が地上にあった時の名残。
ほとんどが失われてしまった叡智。
元来広く知られていなければならない存在。
本である。
その全てが100年に達しようかという古きよりの物である事を思えば、あるいは古文書とすら言えるのかもしれない。
それが、この部屋には三冊。私ではピンとこないが、イチの顔を見ればそれがどれほどの事なのかは容易に想像がつく。
「大金だ。旧大地に他とないお宝だ」
「えぇ、えぇ、知っていますとも」
言いながら、しかし手は止めない。私達はこれ以上にないくらい迅速に事を成さねばならないのだ。
このお宝を、この場から跡形もなく消し去らなくてはならないのだ。




