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組織2

「…………」


 息を潜めるのは、大して難しくない。

 私の方向感覚なら迷うような事はないし、通る道付近の部屋は全て記憶している。あとは誰の目にもつかないように、注意して進めばいいだけだ。誰かが近づいてきたならば、誰も使っていない最寄りの部屋に入ればいい。


「イチ、誰か近づいてきたら教えてくれますか?」


 暗闇でも感覚が鈍らないイチならば、音で接近を感知できるかもしれない。それができたならば、私たちが目的の場所に行くのは簡単な事だ。


「そんな事しなくていいよ」


「え、なんで?」


 イチが目を細めて、肩を竦めた。


「ビビりすぎ。まっすぐ歩いてればいいんだって」


「は、はぁ」


 ビビりすぎ、とはまた酷い言われようだ。旧大地を実質的に支配する組織の中にいるのだから、警戒してし過ぎなどというはずはないのに。

 この建物内は高品質な空調が効いているが、思わず震えてしまいそうだ。


「あ、来る」


「え……!?」


「静かに」


 イチに睨まれる。しかし、この状況下で静かになどできるはずもない。イチ秒でも早くこの場を離れなければ、私たちの計画は半ばにも至らずに立ち消えとなってしまう。

 だが、静かにというだけに、イチはスタスタと先を行く。まさかおいてなど行けないので、結局はついて行くしかない。心臓が破裂しそうなほど慌てながら、早足に一の後ろをついて行く。


「そのまま歩いて」


 イチがそう言うとほぼ同時に、廊下の曲がり角から二人組の男が現れた。どちらも髪を短く整えた、強面の大男である。疑う余地もなく、組織の人間。常に二人以上での行動を義務付けられる人員管理体制によって、組織内を一人で動き回るような輩はそれこそ一人もいない。ならば、彼らを腕尽くで制圧する事などできないだろう。なにせ、こちらは子供と老人なのだから。


「…………」


 目を合わせる事が恐ろしく、やや俯いて歩いた。もしも全力で走ったとしても逃げられないだろうという距離となり、イチの言う通りにした事を後悔した。


 ——しかし、それでいて大事無い。

 何事もなくすれ違い、何事もなく廊下の角に消えた。全く何一つ、問題など起きなかった。いや、私たちがこんな場所にいる事は相手にしてみれば問題なのだが、その問題は気にも止められなかったのだ。


「お爺さん、聞いた?」


 いたずらっぽく、イチが笑う。何を聞いたと言うのか。私は戦々恐々で、聞くどころか見る事もままならなかったというのに。


「何でしょう?」


 楽しげに笑うイチは、珍しく年相応の少女のようだ。ここしばらくは頼もしかったために忘れていたが、彼女は十代前半の少女なのである。


「あの人達、「随分小さい構成員もいるんだな」って言ってたんだよ。「珍しいな」って、「まあそういう事もあるだろう」って」


「それは……なるほど」


「あるわけないじゃんね。そんな事にも気がつかなかったって事だよ」


 なるほど、と。

 私がそう言ったのは、男達の楽観に対してではない。あれは、仕方のない事であるとすら思う。私が逆の立場だったとしたら、やはり同じように見過ごしていたのではないだろうかと思う。

 しかし、イチについては驚いた。

 それを考えてなお、思いついてなお、確信してなお、それでいてなお、まさか実行しようとは。ほんのわずかばかりの不安も感じさせず、挙動も安定しており、相手に疑心を抱かせる事すらしなかった。もしも私だけだったならば、たちまち見咎められていた事だろう。そう思うほどに、イチは堂々とした立ち居振る舞いだったのだ。


 恐ろしいと、頼もしいと。同時に思った。

 少なくとも、彼女がいれば私は安心してこの計画を進められる。

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