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賭博13

「勝ち……です……」


「……?」


 アレクサンドルが、訝しげに目を細める。流石に怪しんだのだろうか。しかし、私はもう限界だった。

 もう、手を握る事もままならない。


 私の手の平は、もはや正常なそれとは程遠い。真っ赤にただれ、もう痛み以外の感覚もほとんどない。次第に汗もかいてきた。肘から先は、震えのせいでまともに動かせもしない。


「お前は……」


 目を、見開かれる。

 アレクサンドルは、私の端末に手をかざしてそこに熱がまだある事を確認する。私の使っていた端末は、なんの細工もされていない普通の物だ。アレクサンドルは、その事を確かに見て取った。


「耐えたのか……まさか、皮膚と肉が焼かれる苦痛に、ただ耐えていたというのか……まさか、まさか……」


 その通りだ。

 全く何一つのトリックもなく、ただ熱さに耐えていた。私の顔に貼り付けられた平然は、取り繕われたものに過ぎなかったのだ。

 私の勝ち筋は、正直それしかなかった。必死のポーカーフェイスで、相手を下ろしてしまう事だったのだ。


 おそらく行われているだろう不正を考慮した賭け。イチの取り乱した演技や声を上げる行動も手伝って、辛うじて勝利を手に掴む事ができた。


「そんなのいいから早くお金を払ってよ! お爺さんを治療しなくちゃいけないんだから!」


 イチが、初めて見せる動揺。

 周りを屈強な大男に囲まれてなお、怯まず大声で叫び上げる。この勝負は、決着がついた時点の賭け金をそのまま利益とできるものだったはずだ。


 ——その、はずなのだが。


「…………」


 反応は返らない。誰一人、返事をしない。


「何やってるんだ!! 約束だぞ! 急げよ!!」


「いや……その必要はないな」


 アレクサンドルが、静かに言う。静かに、静かに、低く、低く、唸るような恐ろしい声で話す。

 先ほどまでも恐ろしさはあったが、それとはまた違うような雰囲気を感じさせる声だ。暴力に慣れているが故の空気とは違う、それとはまるで逆の、ともすれば不気味とすら思う感覚だ。


「なしだ。金はなし、勝ちもなし、お前たちを助けるのもなし」


 これは、自棄になっているのだ。多くの客の前で、明らかな敗北を期して、それでもなお約束を違えようとしている。信用など必要はないというその態度は、貫禄もクソもない考えなしの行動だ。


「話が違う!」


「うるせぇ! んな話は知ったこっちゃないんだよ!」


 客も動揺し、ざわつき始める。しかし、そんな事は御構いなしという風に、アレクサンドルはイチと私を拘束しようとする。


「文句は誰にも言わせねぇ! ここを任されてるのは俺だ! 俺にゃあ誰も文句は言えねぇ!!」


「——ほほう、だったら俺もお前に従うわけか?」


 不意に、そんな言葉がかけられる。

 顔に決して堅気などではないだろうと思わせるような傷を持ち、有無を言わさぬ貫禄を持つ強面の男。初めからこの場に控えており、見止められぬように潜んでいた私たちの仲間。


 ラルフ。

 この場にいる誰一人、その男に逆らう事などできはしない。

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