賭博12
「上げるとも、当たり前だ」
強がるが、しかし俺の手は震えている。
そんなはずはないと思っていながらも、ともすればという思いが俺の行為の邪魔をする。
周りの馬鹿どもは、どうやら俺の考えに気がついていないらしい。不思議そうに首を傾げ、何をしているのかと眉間にシワをよせる。
「何やってんだ?」
「黙ってろ」
「お、おう」
怒鳴りはしない。怒鳴るほどの余裕は、今の俺にはなかった。しかし、どうやらただ事ではないという事は理解したらしい。ともかく、互いに顔を見合わせつつもそれ以上何も言わなくなった。
次第に、ザワザワという小声の会話が気になってきた。おそらく声が大きくなったわけではない。俺があまりに神経質になりすぎて、たかだか小声を気にし過ぎているのだ。それを自分で分かっていながら、それでも気になってしまっている。
どうやら、先ほど喧嘩をしていた客がまた隣の客ともめているらしい。気を利かせた用心棒が、指示を出さなくともつまみ出していった。
だめだ。集中できていない。覚悟を決めなくてはならないこの状況で、全く関係のない事ばかりに気が散っている。あってはならない事だ。ここら一体のカジノと通じていられるのは、全て実力を買われての事だ。もしもここで無様に敗北するような事があれば、俺の生活は保障されない。
「上げるとも……あぁ、上げるともさ……」
目盛りに指が近づくごとに、手の震えが大きくなる。棒を持っている方の手は手放さないように、目盛りを触る方は上手くつまめるように、それぞれ少なくない気を使わなくてはならなかった。
長い時間に感じたのは、果たして俺だけだろうか。もしかしたら錯覚なのかも知れないし、もしかしたら本当に時間をかけていたのかも知れない。
しかし、ずっとそうしている事などできない。震える指はようやく目盛りに触れて、恐る恐る数値を上昇させる。
その時——
「わぁああああ!!」
「……!!」
ガキが、突然に騒ぎ立てたのだ。
息が詰まるようなこの空気の中でそんな事をするものだから、誰もが驚きびくりと体を弾ませた。なんなら、味方であるはずの爺さんも驚いた様子だ。
しかし、一番の問題は俺だった。
「わぁお、お爺さんの勝ちだね」
ガキは得意げに笑う。
俺の震える両手から、端末はこぼれ落ちてしまっていた。
俺の、負けだ。
それを確認すると、爺さんも端末を落とす。
——そして、腕を震わせて伏せてしまった。




