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賭博10

 物質の熱の伝わりやすさを表した数字の事を、熱伝導率と呼ぶ。

 高いほどよく熱を通し、低いほど伝わりにくい。


 例えば、銅はこの数値が非常に高く、鉛と比べると十倍以上も熱せられやすい。

 俺が行なっているこのゲームは、この熱伝導を使ったチキンレースだ。


 しかし、ステンレスという金属がある。

 錆びにくいという特徴を持つために多くの用途に使われる合金だが、今回着目するのはその熱伝導だ。ステンレスは、熱伝導率が非常に小さい金属でもある。


 俺の機器には、オーステナイト系というステンレスが取り付けられている。

 圧倒的有利。どれほど端末の数値を上げようとも、俺の手が熱せられる事などない。


 本来あって然るべき端末のチェックを行わずにゲームを始めたのも、この事実に気がつかせないためである。もしも俺が見せろと言っていたならば、ならばこちらも機器と端末を見せろと言われていたに違いない。今回ばかりはそれが裏目となって相手にイカサマを許してしまったわけだが、こればかりは避けられない事であった。


 しかし、それも先ほどまでの話。


 既に危機は去り、俺の一方的な蹂躙が始まる。

 卑怯などとは言うまい。なにせこのゲームは拷問なのだ。一見して勝ち目があるように見せかけて、その実、絶対に勝つ事はできないという拷問。

 俺が絶対の安全圏にいなければ、拷問など成り立たないではないか。


「“50”だ。さっさと目盛りを合わせろ」


「……コール」


 一見して平然と、爺さんは宣言する。抵抗はない。当然だ。何ができるものだろうか。顔には出していないが、きっと心の中は震え上がっているに違いない。


 目盛りを、宣言の通りの数値にあげる。先ほどまでの10ずつなどというみみっちい事はなしだ。一気に上げて、一気に終わらせる。先ほどまで無駄な時間を過ごしてしまったために、今の俺は少々焦れてしまっているのだ。


「さっさと目盛りを上げろ。チンタラしてんじゃねえ」


 端末をじっと見つめる爺さんに、どうにも苛立ってしまった。この場で遅延する事に意味などなく、結果は俺が苛立ちを募らせる程度の違いしかないのだから。

 やはり、恐れているのだろう。

 こいつは覚悟なんてしていなかったのだ。自分が安全であるとたかをくくった結果があの舐めた態度なのだとすると、その安全が崩れてしまった今は本来ビビって逃げ出したいはずだ。安いプライドなのかガキを励ますためなのか平然を装っているのも、あと何分も持たない事だろうと予想される。高熱に手の平を焼かれる時、必ず悲鳴をあげるはずだからだ。


「さっさとしろよ」


 そう思い、そう言った。

 だというのに、爺さんはこう返すのだ。


「もうしましたよ」


「は?」


「目盛り、もう動かしましたよ」


 機器の目盛りをこちらに向けて、確かに動かされている事を確認させる。数値に間違いはなく、爺さんの端末が正常である事も疑う余地はない。

 ならば、どうして平然としているのか。


 爺さんは、混乱する俺を見て笑った。

 一見して朗らかなように見えるその笑顔は、しかし寒気がするような得体の知れなさを感じさせるのだった。


 そして、次は爺さんの番。


「動かしたなら、次は宣言だな」


 平然と笑う爺さんは、俺の言葉にほんの一秒も待たず宣言を返した。


「“1000”」

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