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賭博8

 目の前の爺さんは、どれほど数値を上げようとも平然としているのだ。不自然である事は明らかだというのに、その事を指摘できないでいる。


 そう、コイツはイカサマをしている。


 ただ、今日の俺は言いようもなく幸運だった。普段なら苛立って仕方のないカジノの喧騒も、今日ばかりはこの場にいる全員にコーヒーを奢ってやりたいほどだ。豆の栽培もままならないこの旧大地においてコーヒーは高級飲料だが、それでも奢りたい気分になった。


 二度目のターン。どうしたものかと頭を悩ませる私をよそに、カジノの客が喧嘩を始めたのだ。

 喧嘩の理由までは、俺は知らない。もしかしたら、どちらかがゲームの結果に物言いをしたのかもしれないし、足を踏んでしまったのかもしれない。たったそれだけ。

 たかだかその程度の事だ。普段ならば、警備用に雇い入れている男に摘み出させる程度の事に過ぎない。しかし、今回ばかりは幸運だった。


 その騒ぎに背中を押された別の客がよろめき、爺さんの相棒のガキにぶつかった。ガキは突然の事にバランスを崩し、不意に床に手をつく。別に頭を打ったわけでも怪我をしたわけでもない、たったその程度の動作。

 その程度が、悪かったのだ。


 ガキの懐から、端末が落ちる。

 旧大地では誰もが持っている熱端末だ。生活の必需品であるために需要は引っ切り無しであり、区画長と繋がっている組織が販売権を独占しているのだという。その結果、端末の相場は払えるか払えないかというラインを常にキープしている。しかし、必需品という事で、全ての住人はどれほど苦しかろうと端末を手にするのだ。


 その端末が、ガキの懐から()()落ちた。


「……っ」


 ガキが目を見開いて息を飲む。慌てて拾い上げようとするがもう遅い。


「取り上げろ!」


 俺のその言葉に反応して端末に手を伸ばした用心棒の方が、素早く拾い上げたのだ。


 遅れて事態に気が付いた爺さんが、慌てたようにガキを抱き寄せる。俺たちが何かすると思ったのだろうが、それは全くの杞憂というものだ。ただし、心配がないという意味ではない。何をするわけでもないが、彼らが危機的状況下にあるという事実は何も変わりがないのだから。


「そりゃあ、なんだ?」


 分かっていて、問いかける。俺の意図を汲み取り、用心棒の男は端末を二人の目の前に見えるよう突き出した。


「……端末、だよ。知らないわけないだろ?」


 強がったガキが、分かりきった事を言う。当然、俺がそんな事を言いたいわけじゃあない事くらい分かっている筈だ。


「言いたくないなら、代わりに言ってやろうか?」


 爺さんがガキを抱きすくめる。強いジジイだ。しかし、俺がそんな健気さに心を打たれるわけもない。


「コイツはイカサマの証拠、だろうが」

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