賭博7
両者、確かに棒を握り、勝負が開始された。
爺さんの方も、ガキの方も、なんとも余裕の表情だろうか。気に食わねぇ。ムカつくぜ。いちいち顔に出したりしないが、俺の腹の中は確かに苛立ちってものが沸き始めていた。
「俺からやらせてもらう。そうだな……まずは、“10”ってところか」
この宣言した数字は、端末のバッテリーとも消費される金額とも発せられる熱量と違うが、そのどれとも比例の関係にある。
しかし、そのレートは知らされていないため、ゲームの参加者は恐る恐る数値を宣言する。まさしくチキンレースとなるのだ。
完全ランダムで変動するこのレートは、たった10で火傷をしてしまう事もあれば、200ほどでもほとんど熱を感じない事もある。その差に傾向はない。このゲームを何度も行なっている俺が言うのだから間違いはない。
「コール」
その宣言は、俺の提示した数値を承諾したという意味。このゲームに降参 はなく、互いのターンで数値を上げていく事で進行する。相手の賭け数値に納得がいかなければ、二倍までの上乗せも行える 。
互いの納得を確認し、機器の側面に記された目盛りを10に合わせる。端末は機器と連動しているため、その数値に合わせて動作する。その発せられた熱が、爪と棒を伝わって手の平を焼くのだ。
「わ!!」
「!?」
「……何か?」
ガキが肩を震わせて、爺さんは訝しげにこちらを見る。生意気なガキかと思ったが、年相応なところもあるようだ。
「別に、ちょこっと和ませてやろうと思っただけだ。必要ないみたいだったけどな」
相手によっては、こんな程度で泣き出す者もいるのだ。その瞬間に端末を取り落とせばその時点で俺の勝ちであるため、ゲームをするのが面倒な時は、いつもこうするようにしている。
今回は意味がなかったようだが。
さて、目盛りを動かしたわけだが、俺の手に熱は感じない。見ると、爺さんの方もキョトンとした顔だ。たった10では、今回のゲームには不充分なのだろう。どうやらレートが低いと予想される。
「では、私の番」
このゲームの本質は、数値が大きくなってから現れる。自らの手を自らの宣言によって焼きながら、それでもその手は離せないのだ。相手の顔色と自分がどれほど我慢できるかという予想を天秤で測り、しかしどちらに傾いていても離す事はできない。なにせ、この勝負をする者はいつも、命を賭けさせられているのだから。
苦しむ、苦しむ、すでに苦しんでいたなお、さらに苦しむ。
そうなってからが、ようやく本質。このゲームは、実際には賭けなどではなく拷問なのだから。
「“50”にしておきましょう」
「おぉ、一気に五倍か。いいのか、そんな事をして」
「10では話になりませんので、さっさと勝負をしてしまおうかと」
「まぁ、自由だがな。勝負に出ようと、勝手に負けようと」
本質を理解しない爺さんが、事を急いて自滅してくれるらしい。
きっと忘れているのだ。それか、勘違いをしている。つまり、初めのうちは互いに様子見が最善であると、見当違いな事を考えている。
「上乗せ “100”」
当然、攻めてしまうに決まっている。早いうちにその手を焼き、平然としたその顔を歪ませてやりたいからだ。みみっちい小競り合いなどゴメンで、さっさと楽しい事をしてしまいたい。
——だというのに。
「ほう、ではコール」
爺さんは、相も変わらず平然と話す。不意を打ってのレイズに、全く動揺していない。それどころか、熱に顔を歪ませもしないのだ。
やせ我慢、だろうか。いや、そうではないように思う。当然、驚異的な忍耐力によって耐えている可能性もないではないが、それよりもよっぽどありそうな事があるではないか。
コイツは、イカサマをしている。




