賭博6
「熱端末を出せ。今日稼いだ分の入ってるお前の端末だ」
有無を言わせぬ口調。当然、反論の余地はない。
特にする気はないが。
ただ、ほんの僅かでも動くたびに警戒した周りの男が睨みつけてくるのは煩わしい。
「稼いだ分は彼女に預けています。端末を受け取っても?」
いちいち、こうして許可を取る必要がある。
「好きにしろ」
「では、そのように」
あらかじめそのように決められていた通り、イチから端末を受け取る。これから行われる事を思えば、これは必要な事だ。
「頑張ってね」
「……えぇ、まぁ」
イチは、およそ粛清を受けるような人間とは思えないほど明るくそう言った。非常にポジティブ。声色だけで、私が負けるわけがないと確信している事が伝わるほどだ。事実、どうやら伝わったらしい男たちの表情が険しくなった。挑発と取られたのだろう。
「このゲームをやるこは初めてじゃあねぇが、初めてのお客もいるだろうからルールを説明しよう」
ルール説明は私たちのためではないらしい。不親切だ。まぁ、私たちは知っているが。
「この鉄の棒と爪を、それぞれの端末に取り付ける。こんな風にだ」
爪の器具を端末に固定すると、まるでツノが出たかのような見た目になる。その爪で棒を挟み込むようにして完成だ。一見すると、端末の頭に棒が生えているかのように見える。
「この状態で、熱を出すんだ。器具には目盛りがついていて、数値をあげるとそれに連動して端末も熱を発する」
熱によって管理されている端末の熱を消費する装置。それに伴って、中に記憶されている金額を減らす事になる。
「この鉄の棒は、爪を伝って熱せられる。俺と、お前は、ゲーム中にこの棒から手を離しちゃいけねぇってゲームだ。手を離した時、その時の目盛りに合わせた金額を、相手に支払わなくてはいけねぇ」
「なるほど、つまり、その熱量を徐々に上げていく事によるチキンレース」
「まさしくまさにその通り。チキン・ヒートってのはいい名前だろう?」
努めて、無知のように。すなわち、何も知らないように。
手の内を全て把握している事などおくびにも出さず、それでいて余裕の表情を見せる。怯えているフリをして、あっさり勝ってしまってはわざとらし過ぎるからだ。
私は強者であり、その高い実力によって、順当に勝利を収めた。
そのように思われなくてはならないのだ。
それが最も、スマートな勝利だ。
裏切られて売られるわけでもなく、体調不良を押すわけでもなく、暗闇で彷徨うわけでもない。誰も苦しまない(何より私が苦しまない)、平和的な解決だ。
「早く終わらせてしまいましょう。ちょっとお腹が空いてきました」
「空きっ腹のままでいろ。すぐにそんなもんは気にならなくなる」
ものの数分足らずで終わるだろう一世一代の勝負。
アレクサンドルには分からないだろうが、私にとってはまさしく人生のかかった勝負なのだった。




