賭博4
「思ったより早いですな」
「後二件はいけると思ってた」
ディープ・ドロップを出たあと、最初に入った店で拘束されてしまった。追い出されるならまだしも、二人して店の奥に連れ込まれてしまったのだ。
「ずいぶん余裕じゃねぇかよ。俺たちはディナーに誘うためにお前らをとっ捕まえたわけじゃあねえんだぜ?」
おそらくは、この店の用心棒のような役割なのだろうという男が、私へ鋭い目を向ける。
この脅しは、おそらく口先だけではない。旧大地などという逆理想郷 では、人が二人ばかり行方不明になろうと気にもとめられない。せいぜい、ゴミ山のオヤジが困るくらいだろう。しかしそれにしても、何故あいつらはいないんだと怒鳴り散らす程度だろうが。
なるほど、多少は手慣れているようだ。それもそのはず。この世界では、人生の逆転を狙う者も多いと聞いた。私たちのようにカジノを敵に回すか、あるいは区画長やラルフの組織のような強大な力への挑戦か、どちらにせよ無謀だ。
「……おい、いつ来るって?」
「すぐとは言ってました……」
用心棒はずいぶんと小声で話すが、静かで閉じた空間では響いて内緒話になんてなりやしない。それを分かっているのだろう。話してから私の方をジロリと睨んだ。
盗み聞いたわけでもないのに。
私たちの待遇は、思っていたよりも遥かにマシだった。
縄で縛られるわけでもなく、猿轡をされるわけでもなく、なんなら明日も柔らかくて座りやすい。
ただ、出入り口には屈強な男が立ち塞がっていた。部屋の中で私たちを睨みつける用心棒と合わせて考えれば、腕尽くで逃げる事はできないだろう。
「老人には優しくするものですよ。子供と同じく弱い、弱い」
「黙ってろって、口で言うだけじゃあわからねぇのか? 強ぇとか弱ぇとか、んなもん関係ない事くらいわかるだろうがご老体」
きっと、手は出さないように言いつけられているのだろう。今にも歯軋りしそうなくらいの様子でありながら、一向に腕力に訴えようとしない。
これも、ラルフの情報通りだ。
彼は、彼らは、都合の悪い客を拘束するのみ。そういう仕事だ。そこよりも先は、彼らに許されていない。
「ようよう、やあやあ、待たせた待たせた」
まるで朗らかなような声をかけて部屋に入ってきたのは、私たちが初めに入ったカジノで出会った髭面の男。
アレクサンドル・グレイである。
「おせぇぜアレックス。あと十分遅かったら殺しちまってた」
「悪かったって。でも殺すのはなしだ。殺しちまったら見せしめになんねぇからな」
見せしめ。確かに彼はそう言った。
つまりは、私たちをどのようかにして、他の客への脅しとするのだ。
自分たちに逆らったなら、一体どうなるというのか。
私たちは今から、縮み上がるような、叫びあげるような、凍えてしまうような、そんな恐ろしい方法によって粛清される。
あぁ、なんと恐ろしい。
なんと恐ろしい事だろうか。
なぜ、こんな事ができるのだろう。
彼らのその行動は、ラルフが予測した通りだったのだ。
恐ろしい、恐ろしい。
あんな男は、敵に回してはいけない。




