一生が賭かる準備
「まずは、どのコップが“それ”なのか分からなくしなくてはいけないわけだが……」
「第三者の介入は認めない。それは公平とは言えないからな」
ずいぶん強気に、香葉は意見を出してきた。意外な事だ。怯えて口を噤んでしまう者も多い中で、逆にこちらに意見するなど。
「意見できる立場なのか、とは言わないでおこう。しかしそこまで言うのなら、当然なにか案があるんだろうな?」
凍える世界にあって、震えるばかりだろうと恥じる事はない。それが当然であり、必然だ。生き物はそういう風にできているのだから、奮い立てというのは酷な話だ。
しかしだからこそ、奮う者には相応の賞賛を送らねばなるまい。
「当然だ」
これまた強気な宣言。恐らくは、すでに何か光明を見出している。
「二人で一度ずつ混ぜる。相手が混ぜている間、もう片方はそれを見ない。これならば、互いにどれが“当たり”なのか判断できないだろう」
最初の一人が混ぜたなら、目隠しをしていた次の一人はどれがどれか分からない。分からない状態でさらに混ぜれば、最初に混ぜた方にもどこにあるのか分からなくなる。
単純だが、確実な方法だ。
「うん、良いだろう。そうしよう」
「それともう一つ。最初に混ぜるのは私にやらせてくれ。そんな危険な液体がどれか分からない状態でそれに触るのは嫌だ」
「なかなか可愛い理由だな。だがまぁ、別に構うような事じゃあない、好きにすると良い」
「そちらが混ぜている間、私は後ろを向いているから、そちらの老紳士は私の見える位置にいてくれ」
「臆病だな、別にイカサマなんてしないよ?」
「しないなら、別に問題ないはずだ」
「ないね、ない。君のいう通りにしようともさ」
長く問答を続け、十分ほど経った頃だろうか。客席のガヤガヤとした声が、俄かに刺々しくなった。先ほどまで思い思いに騒いでいた観客たちが、野次を飛ばし始めたのだ。早くしろと、腰抜けと。やはりそもそもは地下送りに処された罪人たち。民度も高が知れている。
だが、香葉は全く気にしていないようだった。
人生のかかるこの状況下で、正しく何をするべきか理解しているのだ。
旧大地の情勢を考えれば住人の選定が必要である事は理解できるものの、それを見世物とする事は常々反対だった。無駄なプレッシャーをかける事で相手の実力が計れなくなっては意味がないじゃあないかと、いつも思っていた。
二十をようやく越えた程度の若輩の身では、古くからの伝統に意見などできようはずもないが、いずれはこの辺りの不快な習わしには消えてもらおう。
しかし今は、目の前の勝負に集中しよう。
目の前の相手は、多少の野次なんかで実力を出せないようなタマではないのだから。




