賭博2
初心者をカモにする事は、別に悪い事じゃあない。少なくとも、俺はそう思ってる。
もしも弱い奴を相手にしちゃいけないなら、自分より強い奴ばかりと勝負しなくてはならない。こちらも金がかかっているというのに、なぜそんな事をしなくてはならないのか。
ならば一番強い奴は、誰とも勝負してはならないのか。
一番弱い奴とは、誰とも勝負してはならないのか。
馬鹿馬鹿しい。そんな下らない事は議論の余地もない。
だから、俺は弱い奴を狙う。その方が勝てるし、稼げるからだ。金を稼ぐ努力をする事を馬鹿にする奴なんていない。特に、俺は別に法を犯してるわけじゃあないからな。
今日も、慣れない客がノコノコと店に入ってきた。せいぜい稼がせてもらおうか。
◆
「やあやあ、初めてじゃ分からない事も多いだろう」
人当たりの良さそうな笑顔で話しかけてきたのは、情報によるとアレクサンドル・グレイ。髭面が特徴的だが、一見して優しげな顔つきをした中年男性だ。
しかし、その顔を信用するべきではない。
彼は人当たりの良さそうな顔で獲物に近づき、平気な顔で金を巻き上げる悪人である。旧大地で悪人だなどとおかしな気もするが、彼はこの旧大地においてですらさらに悪人なのだ。
寒気がする。それは、この店内の暖房が充分でない事が理由ではない。
「俺が教えてやるよ」
厄介なのは、負けた人間がカモにされた事に気が付かない事だ。
偶然にも負けてしまったが、今日は運がなかっただけだ。そんな事を本気で信じてしまうのだ。
実に狡猾な男だ。唯の一度でむしり取っては、それだけで終わってしまう。だから、必要な分だけほんの僅かずつ負けさせるのだ。何回かに一回勝ちを拾わせ、相手が不快にならないように調整する。それを気を良くしたカモは、次こそ勝つぞと言って店を後にする。多くの客が、近いうちにまた店を訪れる。
彼らは皆一様に、気持ちのいい負けだったと答える。
馬鹿馬鹿しい。負けは負けだ。
何度も訪れ、何度も負けて、それでも何にも気がつかない。そんな愚かしい輩は私の嫌う相手に相違なく、私はそんな相手を演じなくてはならない。
「えぇ、えぇ、助かります。何をすればいいのか分からなかったもので」
努めて笑顔。なぜ従業員に聞かないのか、なぜ初対面の相手をそこまで信用するのかなど、自分に対するツッコミどころは全て飲み込む。
「色々、お願いします」
この我慢は、ほんの少々の事だからだ。




