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賭博1

 この世界にも、やはり娯楽というものは存在する。いや、こんな世界だからこそ、そんなものが存在しなくてはならないのかもしれない。


「で、まさかですよ」


 私は、肩を落とす。それはもう盛大に。ため息もつきそうになるが、なんとかそれは我慢した。

 目の前の看板には、ディープ・ドロップと記されている。深く落ちるとはまた冗談がきつい店名だ。しかしそれでいて、中々に洒落が効いているようにも思える。

 なにせこの店の客は、地下深くに落ちたこの場所で、さらに深みへ落ちようとしているのだから。

 表層からはるか離れたこの場所で、これ以上のブラックジョークもそうはあるまい。


「なにが、まさか?」


「いや、いや、まさかでしょう。なにせカジノで金儲けとは」


 私たちが二人で入ったのは、町で一番の盛況を見せるカジノ。日々多くの人間が頭を抱え、ほんの僅かな人間が笑っている。

 その僅かな人間になろうと、イチは言っているのだ。


「あなた達の計画に元手が必要なのは分かりますが、まさかこんな不確かな方法を取ろうなんて……」


()()()()なんて他人行儀な言い方やめてよ。私達でしょ? それに、別に不確かじゃないよ、お爺さんがいればね」


 自信満々に、イチはカジノの扉をくぐる。煌びやかな装飾を施された、見ていて眩しい代物だ。ゴミ山では到底お目にかかれない。きっと、表層の常識で考えればそれほど高価な素材ではないのだろうが、ここしばらくをゴミ山で過ごしている身としては気圧されてしまいそうになる。シルビアの館はもっと豪勢だったのだろうが、あの時はそんなものを観察していられるような状況ではなかった。肉体的にも、精神的にも、今ほど余裕がなかったのだ。


 店内は、まあ一応の体制が整えられているようだ。一般的にイメージされるカジノというものによく似せているようだと思う。狭い上に少々小汚いが、精一杯誤魔化して運営されているといえる。まあ、どちらにしてもやはりゴミ山よりははるかにマシだ。

 卓は狭々とした空間に押し込まれており、客は背中をこすりながらそれぞれのゲームに熱狂している。ゲームの内容は半丁やルーレットが主だろうか。トランプのような壊れやすい物は、この資源の少ない旧大地では扱い辛いのだろう。


「おおう、新顔かい? ちょいと遊んで行きなよ!」


 二人でどこか空いている卓はないかと見回していたら、なにやら常連らしい男に手招きされた。ディーラーは常にムッとしており、私が店に入ってから全く言葉を発していない。練度が低いように思うが、こんなものだろうかとも思う。

 今では罪人の私も、一応はそれなりの生活をしていた。その常識に合うカジノがあったとしても、とっつきにくい印象を受ける事だろう。

 古い時代の大衆賭博は、もしかしたらこんな雰囲気だったのかもしれない。


「お爺さん……」


 イチが、周りに聞こえないように話しかけてくる。表情を変えず、こちらを見もせず、私にだけ聞こえる声で。


「……分かっています」


 そう、分かっている。

 事前の調べの通り、やはり相手から話しかけてきた。


 今回相手にする、いわゆるカモである。

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