街中に見えるごく当たり前の残酷
地面に設置された灯りは、表層とは全く異なる幻想的な空間を演出している。継ぎ接ぎだらけの建物も、壊れかけの町並みも、まるで初めからそのような趣向で建てられた現代芸術的建築のようにすら思える。
聞けばその特徴的な街灯は、光源であるとともに熱を発する機能までも備えているらしい。熱が高所へと流れる特性を思えば、やはり足元に設置するのが最も効率的なのだという。
ほんの少し前、私が訪れた町に相違ない。
あの時は床に頭を伏せられ、ほとんど通り過ぎるのみであったが、今こうして見てみると気がつく事もある。
人々は、意外にも活気を持った生活をしているようだ。当然、表層のそれとは比べ物にならないものの、ゴミ山の暮らしを知っている私からすれば充分に文明的な生活であるように思える。
不満そうな顔をして歩き、口調は荒く、常にどこかで怒号が聞こえる。そして、それでいて時折笑うのだ。
「これが格差ですか……」
一応、分かってはいた。シルビアに説明を受けた通り、この世界は明確な格差社会なのであると知ってはいた。しかしそれでいて、いざ目の前にするとなんとも悲しいものだろうか。
子供があれほど虐げられているというのに、彼らは普通の生活をしている。
「表層には格差ってないの?」
イチが首を傾げる。
やはり、なかなか鋭い事を言う少女だ。
「あります。ありますが、こんなにも近くで、こんなにも大きくとなると、表層でも稀でしょう。その上、この上には区画長のシルビアがいる」
「ふぅん、いいところなんだね。表層って」
ほとんど犯罪者のみで構成されているこの世界の中で、さらにその中で格差が生まれている。
人の世で最低だと誹りを受けた彼らが、今度はこの地の底にてまた格差を作っている。地上に出れば皆一様に罪人であるにもかかわらず、彼らはその中でなお善しと悪しを決めようというのだ。
馬鹿馬鹿しいと、誰も思わないのか。
いや、誰かは思っているのだろう。しかし、多くは何もしようとしない。力のある中で思った者は、現在の立場に甘んじるため、力のない中で思った者は、自らの身を危険に晒さぬため、どちらにせよ行動になど起こさない。
それが賢い生き方であると、そう思っているに違いない。
「お爺さん何やってるの? 行くよ」
「おっとすみません。すぐに行きましょう」
今しばらくは、こんな世界が続く。90年も続いたこの理を、一朝一夕に崩す術などありはしない。
だから、時間をかけるのだ。
これから長く、これから永く。
時間をかける。
いや、既にかけられている。




