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暗がる日常

 私たちは明らかな劣悪な環境で働いてはいるが、実は町に繰り出す事はあり得ないわけではない。

 オヤジはゴミ山をまともに管理などしていないため、従業員が何人かいなくなったとしても気が付かないのだ。およそ、管理人あるまじき姿である。


 そんなわけで、私とイチは今、町へと向かう熱自動車の荷台にいた。この旧大地に二十ある区画間を行き来して商売をする者は意外に多く、町に向かう場合は多くの場合その車に同乗させてもらうのだ。

 当然タダというわけにはいかないが、それでも徒歩で行くよりもはるかに良い。


「しかし、オヤジにも困ったものですな。もっと目を盗んでこっそり行くものかと」


「目を盗むまでもないからね、酔ってるし。いつもノルマだけ渡したらあとはこっちは無視なんだよね」


 この旧大地の中で、酒を浴びるように飲む人間がいるなんて信じられなかった。ラルフはなんとなくできそうなくらい余裕があるような気がするが、それは彼が裏組織の一員だからだ。木っ端も木っ端のゴミ山の大将が、まさかあんなにも好き勝手な生活を送っているなどと、この世界のありようは間違っているとしか思えない。

 いや、事実間違っているのだろう。そもそも犯罪者のみで作られた世界などあまりにも歪だ。


 ただ、オヤジのおざなりな性格のお陰でこうして抜け出せる事を思えば、文句ばかりも言っていられない。


「帰りは明日の夕方くらい。流石にノルマの報告をしなかったらバレちゃうからね」


「金だけには細かいですね。がめつさがよく出ている」


 イチは向こう一ヶ月分のノルマを溜め込んでいるので、提出には問題ない。私の分まで賄ってなお余りあるそれは、イチの優秀さの証左だ。ノルマをこなせずに折檻を受ける者も多い中で、今までただの一日もノルマの提出を仕損じた事がないのだという。


「まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。オヤジの悪口なんて、何を言ったって言うまでもない事なんだからさ」


「それもそうですな。下らないという言葉がこれほど似合う男も珍しい」


 最低であの男よりも下などいないと言う意味で、まさしく下らない。ならば、この話題には一切の意味などない。


「町では忙しくなるんだから、あんなのにかまけてる暇はないよ」


「然り、然り。しかし、私にこんな重要な仕事を任されてしまってよろしいのですかな?」


 今回の仕事は、仕損じれば計画に大きな支障が出てしまう。大幅な修正か、あるいは全く別の策へと変更すら視野に入る。そういう類の仕事だ。


「まぁ大切と言ったらそんなんだけどさ、そもそも大切じゃないものなんてないし、お爺さんが一番な適任なんだよね。私じゃ子供だから舐められるし、逆にラルフさんじゃあ警戒されちゃう」


 そういうものか。

 不安に思いながらも、私は取り敢えずうなづいてみせる。どちらにせよ、私に拒否権などないのだ。貸しというものは、そう簡単に蔑ろにしていいものではない。


「おい、アンタら。そろそろ町に着くぜ」


「ほらお爺ちゃん、シャンとして。町にはずっといれるわけじゃあないんだから」


 見ると、確かに町明かりが見えた。ゴミ山からでは目視する事のできないあの光は、この世界の文明の中心である。

 ついこの前、私が打ちのめされた場所であり、今これから、私が行動する場所。この一仕事に向けて、形容し難い感情が背筋の部分を走った。

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