惑う事に慣れる年頃
灯りが、頭上からかけられる。容赦なく、私の姿が照らされる。
「ヤッホーお爺さん」
「……っ!」
ラルフに続いてイチが、ニコニコと笑って私に手を振っていた。
何故、こんな事が。
私は、確かに来た道を正しく戻っていたはずなのだ。気が付かないうちに道を外れてしまうなど、私に限って起こりえないはずなのだ。
踵を返し、一心に駆け出す。
何故、私は戻ってしまったのか。
何かされただろうか。例えば、無理やり座らされた時に。あるいは、イチと暮らしていた何日かの間に。
ならば、初めからこの状況を想定していたというのだろうか。まさか、そんな事があるはずもない。
——そのはず、なのだが。
「おっ帰り〜」
「ハッハ! クソガキめ、煽る煽るぅ」
不可解、そして不愉快。楽しげに、愉快げに、笑いながら私を見下す。
いつの間に、道を外れているのだろうか。いや、外れているどころではない。真逆なのだ。いつの間にか、百八十度真逆の方向へと歩いているのだ。
納得がいかない。やはり、何かがおかしい。
振り向けば、二人は灯りを消してしまっているようだった。
これだ、これがまた厄介。遠くから見て目印にできないよう、二人は必ず灯りを消す。私は二人を見失ってしまうので、戻っていても気がつけないのだ。
そして、私が戻れば灯りを点けて笑うのだ。
「お帰り〜」
「遊んでいる暇があるのか? 明日の仕事に差し支えるぞ」
何がどうなっているのか、全く分からない。
あまり長く手間取ってはいられない。灯りをつける余裕すらない私は、当然長時間の活動に耐えられないからだ。あまり長く活動していると、そのための熱がかさんでしまう。これを全て使い切ってしまった時、一時間もしないうちに凍えてしまう。
つまり、私に残された時間はそう長くない。
真っ直ぐに、真っ直ぐに、決して振り返る事なく。
しかしそれでも、元の場所に戻ってしまうのだ。
何か、何か、トリックがあるはずなのだ。
私の方向感覚を狂わせる何か。それを悟らせない何か。現在位置を誤認させる何か。
私は何かをされていて、それに気が付いていないのだ。
例えば、なんらかの薬品によって感覚を狂わされている可能性。二人が私に近づいたいずれかのタイミングで、薬品か何かを吸引させられた。
当然、まるで現実的ではない。
ならば、足場そのものが可動式である可能性。私が気が付かないうちに、私は移動してしまっている。
これは、あまりに大掛かりすぎる。
どちらも、ほとんど考えられない。あり得ないと言って相違ない。だが、何かをされている事は間違いのない事実だ。そうでなくては、現状に説明ができない。
……いや。
いや、待てよ。ともすれば、もしかすれば、そうではないのか。
あるいは私は、何もされていないのか。何もされていないにもかかわらず、このよう状況になっているのか。
あり得る。これは、確かにあり得る事だ。
それならば、この状況は充分に打破できる。




