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闇に惑うは人の性

 暗闇。暗闇。そこかしこ、全くの暗闇。


 初めのうちは闇の包む世界だと思われたこの場所も、何日か暮らせばそれだけではないのだと分かる。辛うじて、ほんの僅かばかりの視界を確保できる程度の明かりは存在しているのだ。目を凝らせば、伸ばした手の指先を目視する事ができる程度の視界はある。

 ただ、それも日が高いうちの話だ。


 表層は、どうやらもう日が落ちてしまったようだ。自分が今、目を開けているのかどうかすら分からないほどの暗闇の中で、どうにか転ばないように一歩一歩歩いている。


 別れ際の、笑い顔を思い出す。

 あの二人——イチとラルフは、私が逃げ出す時に笑っていた。

 きっと、戻る事などできないと思っているのだ。私には、灯りを用意するだけの余裕がないのだ。

 命をつなぐための熱は、その気になれば光へと転化できる。事実、町中の過ごしやすさは、街灯が発する副次的な熱量によるものなのだという。私も作業用の端末を持つ以上、確かにそれは可能なのだが、オヤジから支払われた報酬は二束三文。暖を取りながらでないとすぐにでも凍えてしまう環境下にある身としては、とてもではないが灯りにまで気をつける事ができないのだ。


 イチは、それをわかっている。そして、ラルフもまた、察している。

 だからだ。この暗闇で、不安定な足場で、とてもではないが戻れるはずなどないと思っている。


 全く、浅はかだとしか言いようがない。


 幼い頃、学友とともにキャンプへと出かけた時の事だ。

 表層に山はないので人口森林へと赴いたのだが、人里離れた場所での夜というものは、私が思っていたよりもはるかに恐ろしい場所だった。

 野生動物はもとより、全く灯りのない中での暗闇と、規則性の全くない樹木という障害物。さらには、不安定な足場と慣れない場所。全てが人間の敵となり、ふと油断した拍子に明後日の方向へと進んでしまう事になる。


 その状況は、まるで今と瓜二つだ。

 月明かりすらないこの状況は森林よりもはるかに暗く、ゴミ山は樹木と同じく障害物に他ならない。不安定な足場は言うまでもなく、未だ地下へ来て一ヶ月にも満たない私はこの場所に慣れているとも言えない。

 ならば、やはりこの場所も、ともすれば遭難の可能性を持つ危険地帯だ。


 だが、たったそれだけ。

 たかだか、遭難の危険があるという程度。

 ならば、私にとって大した問題ではない。


 キャンプでの出来事だ。確か、三日予定していたうちの、二日目だったと記憶している。

 普段訪れない場所を散策する事が楽しかった私は、うっかり森の奥まで入り込んでしまった。日が落ちるまでに戻る事もできずに、両親も大層心配していたが、結局は大事に至らなかった。

 これは、なんらかの策があったわけではない。ただ単に、私の生まれついての才能によるものだ。決して、劇的なものではなく、普段生活の中で役に立った事などない、ほんのささやかなもの。


 天性の、方向感覚。

 視界が隠されていようと、初めて来た場所だろうと、私は方角を見失わない。暗闇なのかでどれほど歩き回っていても、私は迷ってなどいないのだ。


 余裕顔の二人を思い出す。

 不快だった。不愉快だった。私の事を侮り、見下している。

 しかし、そんな侮りがこの時ばかりは救いだ。彼らが侮ってくれているからこそ、私は安心して戻る事ができる。


 ——そのはずだったのだが。


「おぉ、思ったより早いな」


 私の頭上から、ラルフの声が掛けられた。

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