笑う一人、思う一人、企む二人
「せっかちな奴だな」
「ラルフさんが脅かすから」
ラルフが笑い。イチが怒る。しかし、二人とも焦っている様子はない。勧誘はほぼ失敗であり、相手は逃げ出してしまったというのに、それでも余裕の表情は崩れないのだった。
「俺は優しくしてたろうが」
「あれは全然優しくないね。おっかなかったもん」
「ビビリなだけだろ。俺のせいじゃない」
ラルフは肩をすくめる。事実、彼はどうとも思っていない。仮に相手がこの話を本当に降りてしまっても、次の候補を探そうとしか考えていないのだ。
当然、自分たちが何かを企てているなどという情報が広まるのは望ましくないため、なんらかの方法で口を封じる必要がある。しかし、それは今までもやってきた事であり、例え始末しようと金を積もうと、ラルフにとっては単なる日常に相違ない。
「相変わらず冷たい冷たい」
「この世にあったかいもんなんてあるわけねぇだろ? んなもんはみぃんな空の上に持ってっちまったんだからよ」
光も、熱も、もうありふれたものではなくなってしまった。金を払い、自らの生活のために確保すべきものだ。
手元の灯りを消して、二人は小さく笑う。当たり前に使っているこんな物ですら、ふとした拍子になくなってしまうかもしれない。家に忘れてきたとか、何かにぶつけて壊れてしまったとか、そんな事がこの世界では命に関わる。
「間もなく夜だ。こっからは暗がりなんかじゃない」
「真っ暗闇だね、知ってるよ当たり前だろ」
「そうだ。果たして、爺さんは帰れるかどうか」
表層に開いたごくわずかな隙間。のアリの巣のような穴から漏れるほんの少しばかりの光も、もう何十分もしないうちに消えてしまう。
夜だ。この暗がりが支配する旧大地にあって、さらに深い闇。
およそ、文明圏の光景ではない。視界は完全に閉ざされ、一寸先どころか皮膚に触れていない全てのものは認識の外だ。
「試してやろうとも、存分に。死にゃしないだろうが、きっと慌てる」
「帰れるのなら、期待できると?」
「おうとも。ちょいと若ぇのを呼んどくか、もしものために。安心しろや、俺の直属だ」
「話は漏れないと?」
「話してねぇのさ」
ラルフは笑う。喉の奥から、唸るように。
漏れようがない。話していないのならば。話さずとも手を貸してくれるような部下を持ち、自分は幸せ者だと。そんな皮肉で笑っている。
「お爺さん、平気だといいけれど」
イチは呟くが、ラルフにその言葉は聞こえなかった。
イチは音もなくゴミを蹴る。絶妙の力加減と体感によってなし得た特技だが、しかしゴミ同士がぶつかる上では意味を成さない。
つまらなそうに積み上げられた山を見て、特に何を思うでもなくため息をついた。
彼なら平気そうだと思いながらも、信頼しきる事ができるほど違いをよく知るわけではないのだ。
もう一度、ため息。
あの老人は、きっと自分より夜目が効かない。イチはやっぱり心配だった。




