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会話

「俺はまだ信用できねえな」


 言葉とは裏腹にニヤケ顔のラルフがそう言う。


「だったらラルフさんがやる? 自分なら信用もクソもないでしょ」


「勘弁しろよ。俺には別の仕事があらぁ」


「そうやっていつも文句ばっかりだよラルフさん」


「いいのかそんな事言って? 俺が降りるぜって言えば困るのはそっちだ」


 二人は、私を置いて話を進める。なんの事なのか、さっぱり分からない。

 しかし、取り敢えず何かの企みがあるのだろうという事は察せられる。さらに、その企みが秘密裏であるという事もわかる。

 ……そして、おそらくその企みに私が巻き込まれようとしている事も、はっきりと分かった。


「ま、待ってください」


 御免だ。面倒事など、この老体がするものじゃない。シルビアとの一戦も、肉体的な苦労を伴うものではなかったというのに気を失ってしまった。

 二人が何を言っているのかなど、分かりたくもない。もしもそれを理解したのなら、私は手を貸すかどうかにかかわらず共犯だ。


「大切な話なら、わ、私はお暇させてもらいますよ」


 返事など聞く必要もない。私は、踵を返して駆け出そうとした。

 出そうと、した。


「待ちなよ爺さん。急がねぇだろ?」


「いや、いや、今日のノルマをこなさなくてはなりませんのでな」


「昨日の余った分を渡しときなよ。今日は休みだ」


「文句は言ってるけどよ、俺は別に爺さんを絶対に仲間はずれにしたいわけじゃないんだぜ? ちょいとその辺のゴミにでも座って、ゆっくり話でもしようや」


 退路を、絶たれる。

 明らかに堅気でない顔に傷のある男に回り込まれたら、私のようなか弱い老人は抵抗などできなくなってしまう。何をどう転んでも、私では彼に勝つ事などできないだろう。


 縮こまり、震え上がり、私は言われる通りに手頃なゴミの上に座った。座らされた。


「俺たちは今な……」


「聞きたくありません!」


 巻き込むつもりだ。是が非で。話を先に聞かせてしまい、後戻りできなくするつもりなのだ。

 そうはいかない。私も馬鹿ではない。相手が是が非というのなら、私も是が非で反抗しよう。抵抗はままならないまでも、せめて抗う事くらいは。


「私せっかく助けたのになあ」


「あ、ずるい」


 イチが、目を細めて私を睨む。腕を組み、ハァっとため息をつく。

 イチにそれを言われると、どうしても反論ができない。イチがいなかったなら、私は間違いなく命を落としていただろう。命の恩人であると言われれば、まあだいたいはその通りなのだ(ただ、イチが私を売ったりしなければあれほど衰弱する事もなかったのではないかとも思うのだが)。


「助けた恩人の私が頼んでも、やっぱり嫌だって言う?」


「…………」


 随分と嫌味な言い方だ。私が言い返せない事を分かっていて、わざと問い掛けている。


 どうする。どうにか、言い包めなくては。

 彼らとは早々におさらばして、業突く張りのクソオヤジのところに戻ろう。あんな場所でいつまでも働くのはゴメンだが、だからといって今すぐに危険な橋をわたる気はない。何年かのうちで信用を得て、動きやすくなってからで充分だ。具体的な方針は、もっとこの世界を知ってからでいい。

 だから、私は彼女らには協力できない。たとえそれがどんな企てなのだとしても、私が協力する事はない。


「困るんだよ!!」


 不意に大声を上げる。どうやら二人は驚いたらしく、一瞬反応が遅れた。

 その隙だ。老体に鞭を打ち、全力で駆け出した。膝にも腰にも悪い動きだ。それに、転べば受け身もまともに取れないかもしれない。若者にはそうでないのだろうが、私にとっては危険すぎる行為だった。


 ただ、ただ、走る。

 奇を衒うわけでなく、策を弄するでもなく。

 一心に、不乱に、逃げる、逃げる。

 積み重なるゴミを踏みつけて、滑らぬよう転ばぬよう。


 私はまだ、何かをする気はない。

 私はただ、何かになる気はない。

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