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金周りには表と裏がありまして

 私たちはゴミをオヤジに渡す。オヤジは給料を私たちに払う。

 ならばオヤジは、どこから金を得ているのだろう。


 酒などという嗜好品と、暖かく過ごしやすい環境。まず間違いなく、少なくない稼ぎがあるはずなのだ。


「急いで、お爺さん」


 給料を受け取り、もうオヤジには用はないとその場を後にしたイチは、振り返る事もなくゴミ山の中を駆け抜けていった。どれほど悪い足場も、暗がりの視界も、彼女には合ってないようなものなのだった。どれほどの暗闇でも見失わず、これほど足場が悪くとも足音すらしない。

 ただ、時折振り返って私の様子を確認している。

 急いではいるものの、私を置いては行かないらしい。


 何日か、たかだかそれだけの時間だが、イチには非常に世話になっている。仕事の稼ぎは山分けだし、勝手の分からない私のために様々な気を利かせてくれる。もしも、イチがいなかったなら、きっと私はまともに働く事などままならなかっただろう。

 しかし、それだけに訝しい。

 イチは、働いている他の子供とはほとんど接触をしない。その、遠ざけているとも避けているとも取れる言動は、およそ子供のそれとは思えないほど明確だった。

 あるいは冷酷。ともすれば残酷。

 あたかもここには自分と私しか働いていないかのように、全くその存在を無視しているのだった。

 ならばなぜ、私は例外なのだろうか。

 確かに私は表層の知識を持つが、それだけが理由とはどうしても思えない。


 不気味だと、思ってしまった。

 私の事を一体どうするつもりなのか。


 そして、意外な事だが、その答えはすぐに出る事になる。

 なにせ、イチはそのつもりで私を案内していたのだから。


「相変わらず時間通りだなクソガキ」


 ゴミ山をいくつか越えた先。オヤジの小屋からずいぶん離れ、仕事仲間の中にもここまで来る者はいない。それほど距離を置いたのは、間違いなくこの接触を露呈させないためだ。

 私達を見て笑みを浮かべたその男は、私をシルビアに引き渡したその人物に相違なかった。


「…………っ」


 思わず顔が引きつってしまったとしても、それは無理からぬ事だろう。むしろ全速力で逃げ出したいところを我慢したのだから、褒めてもらいたいほどだ。


「そうビビってくれんなよ、別にとって食いやしねえ」


「今日は、ですな」


「なかなか言うねえ」


 男は、凶悪な笑みを浮かべて私に近寄ってくる。私は後ろに下がろうとする足に鞭を打つくらいの気持ちでその場にとどまるが、しかしそうしているだけで精一杯だった。一歩前に進め事すら、ままならなかったのだ。


「俺は、ラルフってもんだ。よろしくな、爺さん」


「よ、よろしく」


 なんとか、それだけ話す事ができた。

 傷を見せつけるように、顔を近づける。おそらく脅しているのだ、自らが堅気でない事をアピールする事によって。私がたった一言話すのに苦心している事を思えば、その思惑は成功と言えるだろう。


 どうやら、私を連れ去る時に連れていた他の人間はいないようだった。たった一人、ゴミ山で、何をしていたのだろうか。

 やや訝しんでいると、イチが私たちの間に割って入る。


「今月の稼ぎ。早く買い取ってよ」


 そう言って、私と見つけた電子レンジをラルフに押し付けた。


「相変わらず強かなガキだよお前は」


 ラルフはイチからレンジを受け取ると、例の財布端末を取り出した。これだけ見ればどれほど頭が悪くともラルフの目的が分かる。

 取引である。


「コイツは動かねえみたいだが、これの部品は役に立つ。いつも以上にいい仕事だな」


「それはお爺さんと一緒に見つけた物だから、お爺さんにもお金渡して」


 ラルフは私を見て、ニヤリと笑った。


「ガキに気を遣われるなんて立派じゃねえかよ爺さん」


 そんな嫌味と一緒に、私にも報酬が支払われる。


 ラルフも言ったが、このイチという少女はなんと強かなのだろう。

 オヤジに対しては、ノルマの分だけの仕事だと報告し、超過した分はラルフへ売っているのだ。オヤジは、その日の分を全て取り上げて、ノルマをどれほど超過していても翌日のノルマを課す。給料はオヤジの気分で決まるため、どれほど努力しようと稼ぎに影響は出ない。必然、モチベーションは下がる。どうやら他の子供もそうらしく、みな苦しそうな目で生きている。

 だから、イチは外部に流す。これならば無駄なく稼ぎを出す事ができる。およそ、10代の少女の思考ではない。


 しかし、それでも私は侮っていたのだ。

 たかだか多少の稼ぎを出す程度で終わるような人間なのだと、その程度だと思っていた。


「で、この爺さんは役に立ちそうなのかよ」


「大丈夫だと思うよ。私は結構信用してるけど」


 冷たく、狡猾で、強かな視線。それを向けられて、私は悪寒が走るのを感じた。

 首の後ろに、冷や汗が流れる。

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