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恵まれる事に、文句などあろうはずもない

 ゴミ山の朝は早い。とは言っても、朝など来ないのだが。


 一応、真っ暗というわけではない。表層大地の隙間から覗くわずかな光によって、ほんの少しだけだが光源と呼べるものはある。ただし、暗闇が薄ぼんやりする程度であり、とてもではないが朝と呼べるほどの視界を確保する事はできない。


 光が用意できなければ、アライグマのように眼前の物をベタベタと触りながらでないと仕事もままならない。

 そして、その光は自分で用意しなくてはならない。業突く張りのオヤジは、仕事の必需品すら出し渋るのだ。仕方がないので、イチの持っていた余りを恵んでもらった。どうやらゴミ山には旧大地内での不用品も多く見つかるらしく、使えない物に混ざってまだ動く物があったのだという。しばらくはこれで間に合うだろう。


 ここで問題になるのが、まだ働き始めたばかりの私だ。当然、準備も何もないのだから光源など用意しているはずもない。もしもイチがいなかったなら、もしもイチが協力的でなかったなら、もしもイチが二人分の稼ぎを出せなかったなら、私はゴミ山をさまよってのたれ死んでいたに違いない。

 あのオヤジ、つくづく人の上に立つ器ではない。


「お爺さん、急いで。今日は早く帰らないと」


 イチが呼ぶ。いつになく、というほどでもないが、いつにもまして姦しく、両手を振って。

 なにせ今日は給料日。あの業突く張りのオヤジの気分で、雀の涙のような金銭を恵んでもらうのだ。


 この旧大地の金銭は、多くの場合物体としては存在しない。この世界特有の熱エネルギー利用によって管理される端末により、どれほどの大金だろうと小脇に抱えるように持ち運びが可能なのだ。私も、イチが私を売り払った際に、そのやりとりは目撃している。

 表層でいうところのキャッシュレスというやつが、まさかこの旧大地で進んでいるなんて思いもしなかった。

 さらに言えば、この端末は単なる財布代わりなどではない。中の熱エネルギーを消費する事によって、灯りをつける事も暖をとる事もできるのだ。この旧大地においては、真に必需品であると言える。表層大地では、見られない技術だ。


 歪であると、ある意味では思う。


 表層から切り離された世界だというのに、ある部分では表層よりも高度であるように思う。独自技術まで開発していながら、それでいて既存技術の活用もままならない。

 極寒、暗がり、偏った住民。その特殊な環境が、この特殊な環境を作るのだろう。


 サイバーパンク。かつて人がそう呼んだ世界に、あるいは最も近いのかもしれない。

 言うほどサイバーではなく、なによりパンクでもないが。


「さっさと並べ! こねえ奴は文無しだと思えよ!」


 パンクではない。少なくともあのオヤジは、パンクでもロックでもクラシックでもノスタルジックでもない。


 オヤジから受け取った給料は、多いのか少ないのかいまいち分からない。イチに聞くと「光源を確保するには三倍してもまだ少し足りない」と言われた。

 私が老人と見て足元を見ているのだろうか。いや、最も古株であるはずのイチも似たような金額なのだという。


 やはりパンクなどではない。

 酒の入った腹はパンクしそうなほど膨らんでいるものの、彼はパンクとは程遠い。

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