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目を覚ましても、未だ暗闇

 私が見る夢は、いつだって同じだ。


 誰かが私に笑いかけて「ありがとう」と言うのだ。

 たったそれだけ。

 たまに「おかげで助かった」とか「お前がいてくれてよかった」とか、そんな時もあるが、だいたいいつも変わらない。


 夢の中の私はみんなに頼られていて、誰もが私の名前を読んでくれる。ビクビク怯えながら何かを諦めてしまう事もなければ、だれかの影に隠れてしまう事もない。私は頼り甲斐のある人間で、その期待を絶対に裏切らない。


 そんな夢だ。


 あぁ、今日も誰かが私を呼んでいる。

 私は期待に応えるために、満面の笑みで返事をしようとする。

 どうしたんだい? 私がいるからもう安心だよ。

 それが、いつもの私の夢。それが、私が見る夢。私の夢。


「お爺さん! 起きて!」


「うお!?」


 耳元で叫ばれ、思わず飛び起きてしまう。身体中に汗をかいており、冷たい外気に当てられて非常に寒い。


「泣いてたよお爺さん。怖い夢だったの?」


 混乱、していた。

 寝起きのボケた頭に、見覚えのない状況。いや、見覚え自体はある。しかし、それだけに混乱していたのだ。


 手をつけば、あまりにも柔らかい感覚に腕の中ごろまでが埋まってしまう。何重にも重ねられたその柔らかな布地は、間違いなく私が降り立ったパラシュートの山だ。周りの景色は、暗がりでよく見る事ができない。しかし、どうやら何かが積み上げられているという事はなんとなくわかった。山になっているのはパラシュートだけではないのだ。

 この光景は、確かに見覚えのあるものだ。しかし、だからこそ混乱している。確かに、私はこの場所にいた事があり、この場所で眠った事すらあり、しかしそれでいて連れ去られたはずなのだから。


 そして何よりもの困惑。

 目の前で私を心配そうに眺めている少女が、私を売り払ったその子に間違いない。暗がりの中でなお、ほとんど何も知らないような関係でなお、間違いようがない事実。

 彼女は、人畜無害そうなふりをして、私を罠に嵌めたのだ。


「そんなに怖い顔しなくてもいいのに」


「顔は生まれつき、と言いたいところですが、流石に引きつっているでしょうな」


 無理もないだろう。なにせ私は、彼女を恐れているのだから。その場を動くなといいながら、自分は私の所在を怪しげな組織に通報していた。恐れるなと言われれば、それは無理だと即答する。


「別に騙した事を謝る気はないけど、怖がられるのは傷つくな。私、一応看病してたわけだし」


「看病……」


 そう言われ、自分の手や足を確認する。震えなどなく、力が入らないなどという事もなく、確かに健康体であるように思えた。老体であるために関節が少し痛むが、「年齢にしては若くていらっしゃる」とよく言われた自前の健康を確かに取り戻している。


「もう元気でしょう? 食べ物いる?」


 少女が、何やら棒状の包みをよこす。


「……いただきます」


 よく考えれば、地下に降りて何も食べていない。看病というくらいなのだから、もしかしたら何か口に入れられていたのかもしれないが、私の感覚としては口寂しく思えてしまう。

 また何か騙されるかもしれないと思いはしたが、それなら看病などせずに放っておけばいいはずだ。抵抗する事ができるまで回復させる事に意味などないだろうと思い、怪しみながらも受け取る事にした。それに、空腹なのは事実な訳だし。


 包みを開くと、パサパサの食べ物が姿を現した。口の中の水分を根こそぎ持っていかれるような不味さだったが、これまた少女が水筒を手渡してくれる。中の不味い水で口の中を潤し、私は自らの未来を不安に思った。とてもではないが、まともに生活できる気がしない。


「私はイチ。よろしくね」


「はぁ、よろしくお願いします」


「そんなに怖がんないでってば、別にとって食ったりしないよ。ところでお爺さんアレルギーとかある? 得意な事は? 表層でどんな仕事してた?」


 不安だ。非常に不安だ。この地下の人間はみんなこんな感じなのだろうか。

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