勝負 5
おかしいと、なぜ気が付かなかったのか。
心が折れたなどと言い訳をして、考える事を放棄していた。
考える事は大変だからと、どうにか避けようと終始していた。
なんと愚かしい事だろうか。つい今しがたまでの私は「なまじ優秀」などですらない。単なる怠け者。愚者。くだらぬ負け犬。死んでいないながら生きてすらいない半端者。
人間と呼ぶ事すらおこがましい駄者。
「顔色が優れませんよ」
「…………」
アルの言葉を手を振って制する。態度が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せられた。きっと頼めば手を貸してくれる事だろうが、この勝負を終わらせるまでは離れられない。
最後の勝負が最後に残った札一枚で行われる事を考えれば、実質的な勝負はこれが最後だ。すでに敗北が決定したゲームであるものの、せめて七の札くらいは取らなくてはならない。これが、自らの価値を示す事ができる、唯一のチャンスだ。
初めは、警戒していたのだ。
しかし、いつのまにか抜け落ちていた。こんな勝負はイカサマに違いないというのに、なぜか読み負けていると思っていた。さらには考える事を放棄していたために、気がついて当然の事にすら気が付かなかった。恥ずべき事だ。もしもあのままでは、奴隷として使われても文句は言えない。
私が選んだ三、四、五の札に関しては、何も考えていなかった。論理的思考などなく、数字の並び順が左右逆だったら違うものを選んでいただろうという程度の選択だ。だというのに、シルビアはたった一つの間違いもなく最善手を取った。
たった一だけ高い数字の札を、一つの間違いもなく合わせてきた。どう考えても不自然だ。思考を読むなんていうレベルではない。
つまり、シルビアは私の選んだ札を知っている。
当然、全くの偶然という事もありえないわけではない。気が遠くなるような確率ではあるが、確かにその可能性はある。しかし、そうであれば私に打つ事ができる手などないのだから、イカサマがされているという前提で行動する。私には、選ぶ余地など存在しない。
『六』
これしか、手はない。震える手を必死に押さえ、レーザーポインターの光を六の札に向ける。
「選択は、それでよろしいですか?」
今までと同じような問答。私は答えないが、アルは察して先に進める。
頭がクラクラする、手が震える。あと少しだというのに、あと少しだというのに……意識を保っていられない。
『七』
シルビアの札が、奴隷の男によって掲げられる。それが、私が見た最後の光景だった。体力も限界で、起きている事すらできなかったのだ。それに加えて極度の緊張と、わずかな安堵に意識が緩んでしまった。
私は最後にわずかに笑い、床に体を預ける。
「まさか、最後に引き分けるとは……」
アルのその言葉が、随分遠くの方に聞こえる。
私の手札であるプレートには、六の札が残されているのだった。




