人の集いはやがて形を造って
身体中を痛めてようやく到着した町は、表層のそれとは随分と趣の異なるものだった。
決してゴーストタウンであったり人口が少ないわけでもないというのにどこも薄暗く、人々はそれを苦にするでもなく活動している。建物の作り自体は大した違いがあるわけではないようだが、どの建物も継ぎ接ぎにされたかのような見た目だ。本来使われていた筈の素材とは違う物で壁の亀裂を塞ぎ、見た目の歪さなど気にも留めない。
そして何よりも、この違和感は細部にこそ存在する。
一見では、気がつかなかったかもしれない。しかし、よくよく目を凝らせばその差は歴然だ。例えば通行人が道を開ける車の移動、薄ぼんやりと街を照らす街灯、窓の隙間から見える室内の時計や照明、その全てに至るまでが、表層のそれとは異なるものだったのだ。
形状に大きな違いはない。しかし、おそらくこの世界に最適化されただろうその形は、大きな違和感を私に覚えさせた。車の形状など些細な事だったのだ。それはこの世界にとってごく当たり前の事であり、彼らにとっては疑うべくもない普通。壁掛けのデジタル時計が数字の部分を輝かせているのは暗い中でも数字が見えるようにするためだ。町中の光源が足元にあるのはそれが暖房具の役割も兼ねているからだ。照明が壁に張った網の目になっているのも同じような理由だろう。
すべてが、表層との異質感を醸し出していた。
そして、出店の先で買い物をしている女性が目に入った。彼らは手のひらサイズの端末をコツンと触れ合わせる事によって、商品の売買を行っているようだ。
あの動作が金銭のやり取りという事は、やはりあの少女は私を差し出す事によっていくらかの報酬を受け取っていたのだろう。
「ちんたらすんな」
怒鳴りつけられ、背中を蹴られる。
思わず前につんのめってしまい、手をついた拍子に手のひらを擦りむいてしまった。
「休んでんじゃねぇぞ」
「おいおい、受け渡し前に殺してくれるなよ」
今目の前には、顔に傷のある男と違って随分と身なりのいい長身の男が立っていた。着慣れたスーツとスラリと背中の伸びた姿勢は、表層大地で弁護士をしていても違和感がないだろう。しかし、何に対してもつまらないものを見るような目を向けているためか、初対面での印象は最悪だ。
「人間がこんくらいで死ぬかよ。それよりも、確かに受け渡ししたからな」
「はいはい確かに。受け取ったからさっさと行け」
「相変わらずムカつく野郎だ」
どうやら傷の男も彼の事を気に食わないようだが、それ以上何を言うでもなくその場を後にした。乗ってきた車は見る見るうちに遠ざかる。しかし、見えなくなるよりも早く、私は長身の男に首根っこを掴まれて連れられてしまった。
「あの男も言っていただろう、ちんたらするな。こちらは主人を待たせているのだ」
「主人……?」
私は、何やら真っ黒な建物の中に連れられる。いや、私はもうほとんど歩いていないので、引き摺り込まれると言ったほうが正しいか。この建物が何をする場所なのかなど想像の余地もないが、私のこの扱いを鑑みる限り丁重にもてなされるわけはないだろう。
不安と恐怖。
そして寒気と疲労だけが、今の私の体を支配していた。




