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闇の中へと歩み出す事の、なんと恐ろしい事か

「私は、これからどこへ連れられるんだ……?」


「んなもんはテメエに関係ねえ。無駄口を叩くな」


 ふらふらの体で、どうにか転ばないように歩く。気を抜けば今にも倒れてしまいそうだ。それはさながら、糸の切れた人形のように。フワリと、グラリと、ガシャンと、バタンと。

 どうやら男はそれが気に食わないらしく、私を見るたびに視線が険しくなる。あと何回かのうちに取り殺されてしまうのではないだろうか。


 しかし、どうやらその心配はないようだった。


「さっさと乗れ。俺は暇じゃねえんだ」


 見たところ、車のような乗り物だった。しかし、表層大地のそれとは雰囲気が違う。

 どちらかというと、かつて存在したという馬に引かせた車に似ている。エンジンを積まず、動物の脚力のみで可動する物だ。自動車の登場によって姿を消したといわれているが、目の前のそれはまさしくその車によく似ている。

 車体は小さな部屋のような箱にタイヤをつけたような形状で、中に座れるよう椅子が設置されている。ただし、この車体には馬が繋がれていない。御者台には手綱の代わりに随分と大きなハンドルが付いており、その脇には自動車でいうギアのレバーのような物が見て取れる。

 まるで、運転席だけが自動車のようになったようだった。


「へーい、お客さん、どちらまで〜?」


「町に決まってんだろ。ふざけてねぇで行くぞ」


「相変わらず冗談が通じねぇんだから」


 中に放り込まれた私は、座らされるでもなく床に転がった。男が私の前に座るとすぐに発車した。立ち上がる体力もないままに、地面から伝わる振動に背中と肩を痛める。

 何も話さず、動く事もできず、私は震えて顔を伏せていた。何かを目にする事によって、何かが起こってしまいそうに思えたのだ。それはきっと今より恐ろしい事で、何より取り返しがつかない。現状が取り返しのつく事態である保証などどこにもないというのに、私はただ頭を伏せていれば嵐が頭上を通り過ぎていくものであるとでも思っていたのかもしれない。


 あの少女の事を思い出す。

 新たに地下送りとされた者は、町で奴隷にさせられるのだと。きっとアレは、私があの場から動いてしまわないように伝えられた事なのだろう。そんな事をしなくとも私は身動きできないが、少女にしてみればそんな事は知る由もない。

 もしも望めるのなら、あの言葉が私を騙すための嘘でありますように。

 私にできる程度の事など、もうそのくらいしか残されていない。

 私の事を売ったあの少女の言葉が、どうか全て嘘偽りでありますように。罪人である私が一体何に対して祈っているのか、自らですらその答えは出ない。しかし祈らずにいられなかった。救いようのない悪党であるはずの私を、何かの気まぐれでお救いくださいと。

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