その謀りは必ず要する
「こっちだ、こっち」
翌日か、あるいはもっとたった頃かもしれない。なにせ私は衰弱しており、一度眠りにつけばどれほど目を覚まさないかわかったものではないからだ。
近くから声がして、私は目を覚ました。
「こっちだ、このあたりにいる」
その聞き覚えのある声の主人は、どうやら昨日の少女らしかった。
「こっちです、ここです!」
どうやら誰かを呼んできたらしいと察した私は、声を上げて必死にもがいた。あまりにも寒かったため、少女が去った後に再び布にくるまってしまったのだ。きっと探すのは至難だろうと、こちらからも目一杯声をあげる。
喉から出た声は、掠れていて言葉にもなっていなかった。これではあちらまで聞こえないだろう。しかし、弱り切った体ではパラシュートの山から這い上がる事も難しかった。
「そこだ!」
どうにか体を動かしていると、どうやらそれを少女が見止めたらしい。無駄な努力もしてみるものである。
助かる。概ね死を待つのみであると覚悟した私だが、目の前にぶら下げられた生きる可能性に飛びつかずにいられなかった。
私は、まだ生きていられる。
「お爺さん、生きてたね」
「いや、縁起でもない……」
いやしかし、この場で後何日もいれば間違いなくそうなっていた。そこを思えば、言葉などでは足りないくらいの感謝だ。
「こっち、こっちにいたよほら!」
少女が手を振る。背中に伝わる振動で、誰かが山を登ってきているのがわかった。
「ほら、ここに新しく送られてきた人」
何日かぶりに、生きる希望が湧いた。少女と話している時ですら緩やかに近づく死を実感し続けていたというのに、私は今、生きる事ができるのだという希望を持っている。
死に傾いて決して動かぬと思われた天秤が、ようやくその重さを生へと移したのだ。私は再び生きる事ができる。
——そう、思っていた。
「ガキの言う通りだな。おい、ジジイがいたぞ!」
姿を現したのは、明らかに柄の悪い男だった。左のあたりから右目を通って頬にまで達している傷跡を持ち、その口調からは知性のかけらも感じられない。ただ高圧的にするばかりが得意であり、頭の中はまるっきり空っぽである男だ。私は彼の事などまるで知らないが、見た目はまさしくそんな人間だった。
明らかに、堅気の人間ではない。
いや、ここが罪人の流刑地である以上、多くの住人は犯罪者なのだが、まさかこんなコテコテの悪人が現れるとは夢にも思わなかった。
「さっさと歩けジジイ」
もしかしたら見た目が怖いだけの普通の人かもしれないという期待は、その言葉であっけなく否定される。手も足もまともに動かす事ができない私を、無理矢理に歩かせようとしているのだ。
「い、一体どこに……?」
「町に決まってんだろが、無駄口たたくな」
なんという事か。
問いただそうと少女を見ると、すでに私から興味を失ってしまったようにこちらを見向きもしない。なにやら別の男と話していて、その手には何やら箱のような物を持っている。二、三言葉を交わすと、相手の男も同じ物を取り出してコツンと互いを触れあわせた。
そして最後に、男が話して二人は別れる。
「報酬だ。よくやった」
少女は返事をせずに、トコトコとその場を離れていった。




