まだ見ぬ表に想いを馳せる少女
「木って固いか? 熱いか?」
「表面はカサカサの皮があるので固いですね。でも生きているので、断面とかは結構温かい」
「そっか、植物も生き物だから……」
他愛ない内容の、くだらない会話だ。しかし、少女にとってはどうやらそうではないらしく、随分と熱心に聞いているようだった。実際、こんなにも寒いと、背の高い樹なんて育たないのだろう。表層の寒い地方でも、植物の多くは地面を覆うような短い草類だ。
彼女は、見た事もないものを、話を伝え聞くだけで想像しているのだ。私が小さい時なんかは、テレビのヒーロー番組に心を踊らせたものだが、彼女にとっては表層の話がそれに当たるのだろう。実際に存在するわけではないヒーローと、決してみる事の叶わない表層は、確かにどこか似ているのかもしれない。
「あ、私戻らなくちゃ」
「そうですか」
そのあといくつか話したあたりで、少女はスッと立ち上がった。足元が悪いので転ばないかと心配したが、そもそもこの柔らかい場所で転んでも大事にはならない。少女はわざと前のめりに倒れ込み、来た時と同じように四つ足に這って帰っていったのだった。
もっと、文明など作られていないような場所だと思っていた。
仮にあるのだとしても、それは間違いなく殺伐としているものだろうと、てっきり。
あんな無邪気な子供が、あんな無邪気な顔をできるような環境であるなどとは夢にも思わなかった。
身体中が痛い。
年の頃が四十を超える直前あたりから少しずつ弱っていたこの体には、極寒の空中降下に耐えるだけの体力など残されてはいなかったのだ。もしも少女がもう一度ここに顔を見せるような事があれば、失礼を承知で食べ物を分けてもらえないか聞いてみよう。もしそれができなかったなら、体が動けるようになるまで回復するのが先か空腹で動けなくなるのが先かの耐久レースとなる。大体の場合、餓死する方が早いだろう。
「あぁ、そういえば」
少女の名前を聞くのを忘れていた。少女自身名乗らなかったし、会話中はほとんど質問攻めでこちらから聞くタイミングがなかった。
もう一度顔を合わせたい理由が、もう一つできた。
こんな歳にもなってあんな幼い少女を待ち焦がれるなど、なるほど私は犯罪者に違いない。
地下送りにされて当然だなどと自虐的に笑ってしまうのは、余裕とは全く逆の感情によるものだった。
ただ、私はもっと警戒してしかるべきだったのだ。
なにせこの場は旧大地。ほんのわずかな例外もなく重罪者によって作られた世界であり、あの少女ですらその環境で育っているのだから。




