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劇的な二人の平凡な出会い

 眠っていたというよりも、気を失っていたという方が正しい気がする。

 そんな寝覚め。私は少女の手の平で叩き起こされた。


「おじさん、おじさん、起きてよ」


「痛いっ、ちょ、起きたから!」


 体を動かす事すら億劫だというにもかかわらず、少女は次第に強く叩いた。最早ビンタとすら言えるほどであり、振り上げた手が握られているところを見るにもう間も無く殴られるところだったようだ。


「おじさん、新しく送られてきた人?」


「……まぁ、そうですが」


 歳の頃は、12から14といったところか。受け答えはしっかりしてきたものの、未だ何を考えているのかわからない年代だ。気分屋でわがまま、感情的で情緒不安定。

 正直なところ、私は子供が苦手だった。


「ここではさ、新しい人は町に連れてかれるんだよ。奴隷ってやつ? それされるんだって。だから隠れてた方がいいよ」


「え、うん。親切にどうも」


「ちょっとここ座っていい?」


「まあ、どうぞ」


 私は身体を起こす事ができずに、その場に寝転がったままだ。少女が横に座り込んで、パラシュートの山がグッと沈むのを感じた。


「ねえ、おじさん。表層ってどんなところ?」


「……おじさんというのはやめてくますか。そんな歳じゃあないので」


「え、でも全然お兄さんには見えないよ?」


「そんな事言ってないだろ! もうそんな歳じゃあないから、おじさんと呼ばれるのはこそばゆいと言っているんです!」


 もう60を5年も越えてしまった。髪もずいぶん白髪が多くなってしまい、お世辞にも若くは見えないはずだ。


「じゃあなんて呼ぶの?」


「……お爺さんとでも呼べばいいでしょう」


 自分で言うのは、なんとも恥ずかしかった。


 少女は首をかしげる。暗がりではよく見えないが、眉間に皺も寄せているように思う。


「あなたみたいな人をお爺さんっていうの? 私、初めて会ったから分からなかった」


「分からないって……」


「中々いないんだよ、年寄り。みんなその前に死んじゃうからさ」


 私の場合は歳をとったわけではなくて、そもそも年寄りが送られてきた。しかし歳を取る前に死んでしまうとは、ここの環境は思ったよりも劣悪なのだろうか。


「ねえ、そんな事より表層の話ししてよ。私見た事ないんだよ」


「見た事がない……?」


「私ここで産まれたもん」


 意外な事、でもない。

 道理で、おかしいと思っていたのだ。こんな若い子供が、まさか地下送りになどされないだろうと。確かに、旧大地で産まれた子供がいるというのは意外だが、しかしそれだけに納得もしていた。

 人類が表層を創って九十年。地下に送られてきた人間の数を思えば、いずれかの時点でコミュニティが形成されていても不思議ではない。そして、ある程度繁栄したコミュニティなら子孫も残せよう。


 ならばこの場所は、私が思っていたよりもはるかに高度であるといえる。


「太陽ってどんなの? 木ってどんなの? どんな街がある? どんな国がある? 全部聞きたい。余さず全部」


「落ち着きなさい。別に渋ったりしませんとも」


 どうせ体は動かない。用事などあろうはずもない。

 暇だけがはるかに存在しているのなら、盛大に振舞ってしまっても構わないだろう。


「時間ならある」


 いつの時代も、目を輝かせる子供には勝てないものだと相場が決まっているのだから。

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