見つける少女、見つかる老夫
旧大地は、これ以上になく分かりやすい階級社会だ。
知識と知恵のどちらかを持つ者は明るく暖かい生活を送り、そうでない者は暗がりで凍える。さらにその中にも細かなヒエラルキーがあり、力のない者が生きていくのは至難の技だ。
だから、力のない者同士で集まって助け合って生きていく。
「さっさと働け!!」
怒号が響く。権力も財力も知力もない、この旧大地における弱い大人だ。弱い者は単独で生きられないため、群れてその日の食い扶持を稼ぐ。この辺り周辺だけでも数える事がバカバカしくなるほどのコミュニティがあるが、この男は子供を集めて働かせているのだった。
こんな何の力もない男でも、腕力だけなら流石に子供よりは強い。哀れな少年少女たちは、日々繰り返される暴力に怯えながらゴミ山を駆け回るのだ。ごく稀に落ちてくる表層大地からのゴミは、町のはずれに集め積み上げられている。事故かイタズラか、あるいは罪人への嫌がらせのために投げ込まれた様々な物は、この旧大地の重要な資源として活用されている。そのゴミを仕分ける事によって金を得ているのが、偉そうに踏ん反り返って大声を出す男だ。
「チンタラしてんじゃねえよ!」
少女が一人、手近なゴミを投げつけられた。少女は特に何も言い返す事なく、足早にゴミの山に駆け込んで行った。
男は暴力を振るう事しかできない弱い人間だが、少女は暴力すら振るえないのだ。この旧大地で最も弱いのは、このゴミ山で働いているような子供なのだった。
「…………」
少女は、首を傾げた。毎日この場所をよく観察している彼女だからこそ気が付いた事だが、地下送りのパラシュートを積み上げている山が崩れているのだ。昨日よりも明らかに低い。この事を気にしていたがために、一応の上司であるところの男にゴミを投げつけられてしまった。
彼女は、ここではイチと呼ばれている。
一番長くここで働いており、一番古くからこの仕事をしており、一番稼ぎの良い子供だったからだ。イチはゴミ山の中から、特に高く引き取ってもらえるような物を見分けられるのだ。そうして鍛えられた観察眼だからこそ、いつもと違うゴミ溜めに気付けた。
積み上げられた山の一番上。旧大地で一番多いゴミはパラシュートであるため、この山はいつまでも消えない。その山のてっぺんが、イチの思う違和感の正体だと感じられた。
ふかふかの山は、とてもではないが立ってなど歩けない。両手をついて、溺れるように這って進む。
そして、右手に何かが当たる。
今の今までパラシュートの柔らかさしか感じなかったが、明らかな異質感がそこにはあった。一枚、一枚、イチはそれを剥がす。そこに何が埋まっているのか、俄然興味があった。何を楽しむ事のないこんな場所で、久しく覚える事のなかった感情である。
それに、ともすればそれは、イチの望むものかもしれないのだ。
「…………!」
果たしてそれは、人間だった。
衰弱し、疲弊し、凍えていて、それでいて生きている人間だ。パラシュートの中に埋もれる事によって、体温の低下を防いでいたのだろう。
「おじさん、起きて」
イチはペチペチと頬を叩く。
彼と彼女の物語は、こんな偶然から始まったのだった。




