9芒星の少女達
マナシキ学園。世界と世界ならざるところとの狭間に立つこの学園には、特殊な技能を持つ少女達が集められてくる。
その中でも《TACTIC部》と呼ばれる戦闘に特化した少女達の集う部。世界ならざるところから現世に具現化しようと溢れてくる、名付け得ぬものたちを撃退することが彼女らに与えられる使命である。多感なリビドーを秘めたこの年代の少女の中でも選ばれた者だけがこの使命に立ち向かうことができる。
……彼女達を、その独自の戦術方式から《9芒星の少女達》と呼ぶ――
空町(MF・2年・TACTIC部キャプテン)「エリア中間地帯の敵は排除Ok! FWは敵陣まで上がって! 草馬さん……任せたわ」
草馬(FW・2年)「…………ん」
FW・草馬灯は次々と向かい来るピエロを斬り、暗く茫漠とした地平の奥へと駆ける。
隼川(FW・3年)「よし、蹴散らすぞ! 草馬に続くよ」
颯(FW・1年)「はい!」
空町「頼んだわ……!」
草萎(DF・3年)「あー、あー、
ちょっと空町~、いいかなっ?」
空町「草萎先輩? 何か?」
草萎「DFの方がちょおーっと、危なくてさ、
ピエロの数がちょっっと、増えちゃってて?」
空町「え、さっき後はもうDFで何とかなる数まで減らし――」
味方陣の後方……
七ッ家(DF・1年)「うわー、先輩ー」
森鹿(DF・3年)「ああ、あかん、そっち、そっち! 1体行ったて!」
七ッ家「ああ先輩だめっす、ってあっ先輩っ、先輩の後ろにも1体――あ、しまっ」
DFの一人、一年の七ッ家ナナはあたふたする手に持つ魔法銃でピエロを撃とうとするも、空振りしてピエロを後方へ通してしまう。
森鹿「あーもう。わややな……他人のことはいいで、自分の方見やんと……て、こっちも来とるん?! もう嫌や……」
七ッ家「抜かれちゃった……小鳥さーん!
ゲートの方に一体、行っちゃいましたぁ!」
小鳥(GK・3年)「みゅううう~~」
味方陣の最後尾では、GKと呼ばれる役割の一人が、エリアの門を守っている。ここを抜かれると、ピエロが現世と現出してしまう。
※ピエロとは、この世界ならざるところにおける名付け得ぬ敵の総称。
現世に現出したピエロは人間に憑りつき、不安・妬み・僻み等の様々な感情へと変化するのだ。
草萎「あ、ゲートが……っ
やばいやばい~」
空町「わかりました。私が戻ります。
空鮫寺さん、FWのサポートお願い!」
空鮫寺(MF・1年)「はい!」
少女達は、ピエロの群れが観測された際に、ピエロが現世へ現出する境界線の≪エリア≫と呼ばれる場所へ転送され、陣形を敷いて戦う。この特殊な磁場のエリアにおける安定性を保つため、9人という決められた人数で陣を組むことから、少女達は≪9芒星の少女達≫と呼ばれる。
基本的な構成は、エリアの奥へ攻め込み敵側のコアを潰すFW(前衛)、前衛後衛をつないでサポートを行ったり攻めにも守りにも回るMF(中衛)、こちらへ押し寄せるピエロを排除するDF(後衛)、そして現世への門を守るGKである。
敵側のコア(大抵は群れを率いる巨大ピエロや凶悪なピエロ)を潰すことで、群れは消滅する。
味方が一人でも戦闘不能になると陣形が崩れ、あるいは、門を多量のピエロに抜かれてしまうことで群れの加速度が増してピエロを止めることは不可能になり、エリアから弾き出されてしまう(転送前の場所に戻る)。
草萎「走れ走れっ 空町はやくしないとっ」
空町「あとリミットまで、何体余裕があります?」
草萎「え……えーと、それがナァ、その……
ノー余裕……いやノン余裕と言うべきか、いや
ニアリーイコールリミット1……みたいな?」
空町「みたいな。ってつまり……あと1体抜かれたら、」
草萎「おわりだよォリーダーァァ」
空町「なっ」
草萎「てへへ」
空町「てへへじゃないですよ、この短時間でどんだけ抜かれてんですか!」
草萎「ごっ ごめんなさい……てへへ~」
後方へ急ぐ空町らの目にゲートが見えてくるが、ピエロは既にその目前に迫る。
小鳥「みゅうっ みゅううう~~!!」
空町「あっ」
草萎「ぬ、抜かれちゃうっ」
ピエロはGKを弾き、門を抜けた。空間が揺らぎ、たくさんのピエロが高速で門へ向かい吸い込まれていく。その様子を見ながら、どうすることもできないまま、少女達は空間から姿を消していった。