テンプレ遭遇
アディーレに見送られ、街まで歩く。
城からスタンリー街まで、砂利道の一本道が続いている。
往来のない道なので、森に呑まれているかもしれないと予想していたけれど、予想に反して道は雑草ひとつなく綺麗に整備されている。
街に入るまでは人に会うのを避けたいので、砂利道を並行するように森の内側の獣道をかき分けて歩く。
背負ったリュックが木に引っかかって歩きにくい。荷物は最低限の物資と換金用の品々がぎっしりと詰まっている。アディーレが高価で小さくて軽めの無難なものを選別してくれたので、重くはないが如何せん歩きづらい。
泥るんだ土に足を取られて、靴の中がぐしょぐしょで気持ち悪い。
陽の光が差してきて暑くなり、顔が火照っていく。
一度立ち止まり、目を閉じる。深呼吸して、空気を口いっぱいに吸うと草木の香りに自由を感じた。荷物から干し肉を一欠片分取り出して、齧り咀嚼し呑み込む。
そして、バテないように、水飲み休憩を挟みながらひたすらに歩く。
『ガサガサッ!』
――ついに来た!!
ぽよんと丸い軟体異世界謎生物の代表格スライム!!!
心の中で「スライムがあらわれた」と謎に唱えてしまう。
こうゆう時、過去の記憶の引きずりを強く感じるなぁと、しみじみ思う。
傍観していると、スライムは俺に気づいてポヨン、ポヨンと進行方向の逆へ逃げていった。
ちょっとドキドキしたけれど、嫌悪感はないな。
もしかしたら、世界の殲滅対象とされている魔物をみれば猟奇的な感情でも湧いてくるのかも? なんて怖い想像をしたこともあったけれども、杞憂だったみたいだ。
木々を避けながら、更に歩き進める。
『ガサガサッ!』
――ゴブリンが居た!!
棍棒を振り上げながら、俺と同じ背丈くらいの醜悪な顔をした生き物がこちらに向かって走ってくる。
怖い!!!
恐怖で足が竦んで、後ずさる。
反射的に左手の甲にグッと魔力を籠めてしまい、黒い魔力がシュッと素早くゴブリンへ飛んでいった。
振り上げられた棍棒はゆっくりと降ろされ、走っていたのが歩く速度まで下がり、俺の目の前に来る頃にはしおらしい姿に変わっていた。
ゴブリンの右足首には黒百合の紋章が浮かびあがっている。
正面に立つゴブリンを見つめると、小さくうなだれながら棍棒を差し出してきた。
「ギャッギャッ……」
ゴブリンの言葉はわからないけれど、なんとなく心の機微が感じ取れる。
これはお詫びのしるし……かな?
棍棒は、ただの木の棒で、手持ち部分によれよれの布が巻き付けられているだけのもののようだ。
「ありがとう。でも荷物がいっぱいで……持っていけないから貰えないよ」
「ギャッ!ギャッ!」
棍棒をゴブリンへ返す。
ゴブリンは棍棒を片手で受け取ると、もう一方の手で手持ち部分の布を指に巻き付けるようにして器用にくるくると絡めとる。そして、俺の右手を手に取り、今度は逆回しで俺の腕によれよれの布を巻き付けていく。
「ギャ!ギャ!」
俺の腕をみて、ゴブリンは満足気だ。
巻いてもらったところがほんのりと温かい。誰かにプレゼントをもらったのは初めてだ。嬉しい。
「ありがとう」
「ギャ!」
「もぅ行っていいよ」
手を振り別れを告げると、ゴブリンは何度もこちらを振り返りながら森の奥へと消えていった。
また歩きはじめると、微かに水が流れる音が遠くから聞こえてきた。
川でもあるのかな? うーん。気になるし、行ってみたいな。街は半日ほど歩いた距離にあるはずだから、今日中にはたどり着けるだろう。でも、陽が傾く前には街へ辿り着いて、換金や宿探しがしたいから道草する時間はないんだよね。
夜になれば魔物の活動時間となり、森の危険度がグッと増す。それだけは避けたい。
ちょっとだけ歩いてみて、遠そうなら諦めようかな。
音がする方へ歩くと、幸いにも川へはすぐに辿り着いた。
川の水が透き通ってる! 魚が群れになって泳ぐ姿がみえる。
辺りを見回して人が居ないのを確認して、荷物を降ろす。
靴を脱ぎ、バシャンっと川へ足をつけてみた。
「んんー、冷たくて気持ちいい!!」
泥にまみれた靴を洗い、川の浅い場所に石で小さく行き止まりを作る。するとすぐに数匹迷い込んできたので、魚を驚かさないように、そーっと出入口を石で閉める。そして小さく区切っていき、行き場をなくしたところを手で捕らえる!!
あれ? 簡単に魚が捕れてしまった。
乾いた木を集めて火を起こし、ナイフで木の枝を簡単に削いで串状にして、魚の串焼きを作ってみた。
うまく焼けなくて、片面が黒焦げた魚が焼きあがった。
熱々の魚の腹の部分を齧りつく。
「美味しい!!」
ジュワッと音がして腸をとった切れ目からが美味しい汁が口へと広がる。
焼き魚ってこんなに美味しかったんだ。
串焼きをすべて平らげて、川を後にする。
もとの獣道まで戻り、街へ向かって歩きだす。
何事もなく、陽が傾く前に街へたどり着くことができた。
あれから来る途中にもスライムとゴブリンに何度か遭遇したけれども、こちらに気づくと逃げていったので魔物に襲われることもなく無事につくことができた。