特訓
――――半年経過
城を出て、美味しいご飯を作り、ドラゴンを仲間入りさせ、勇者の様子をみる。それが当面の目標だったはずだ。
しかし無情にも現実問題が俺を阻み、一進一退して物事はとんとん拍子には進まなかった。
前世の記憶を生かせばどうにかなる気がしていたが、大きな間違いで全く役に立たなかった。
コンクリートを用いて作られた石造りの城壁を壊す手段の正解は何だ?
壁の外に出ようとも、物理的に壁穴を開けるだけの腕力はない。
ならば、魔法で解決だ! と、アディーレに教えを乞うも「生前は魔力がなく魔術専攻でしたので魔法は教えられませんわ」と断られてしまった。魔術と魔法は別物らしい。魔力が豊富なラッドが魔法を暴発させれば城丸ごと吹き飛ぶ可能性が高いので、外へ出るまでは訓練の一切も禁止されてしまった。
結局振り出しに戻り、生きてくための基礎を固めるしかできなかった。
午前中は読み書きから始まり、一般教養、貴族のマナーと所作練習。午後は護身術のナイフを教わり、その後に剣の素振りが終わったら、体力が尽きて落ちるまで筋トレする。
半年間、ずっとこれの繰り返しだった。
今日の午前ノルマを終えて一息。感傷的な気分になって、窓から外を見上げる。
窓から見る景色は、青く澄んだ空に雲が流れて遠ざかってく。
湿った土の匂い、木々を通り抜けた緑交じりの風、落ち葉を踏みしめた感触、雨に濡れる冷たさも、俺の目の前にあるはずのものが、それらひとつも感じたことがない。
アディーレが来て、一瞬忘れかけていた苛立ちや怒りがぶり返し、俺を前へと突き動かす。
絶望を跳ね返すだけの力は持っている。学べば学ぶほど、鍛えれば鍛えるほど俺の身体は応えてくれた。
城の二階に上がり、自分の部屋の扉を開ける。
部屋を一周見渡して、首を左右に傾けコキリ、コキリと打ち鳴らしながら、ベットから正面の壁に飾られているハンマーを手に取る。そして、ベット脇の窓の横に戻り、両手で振り上げ、外壁に向かって力の限り振り下ろす。
最初は重くて持ち上がりもしなかった全長80㎝程の装飾用鉄槌ハンマーも、今では体がぶれることなく扱えるようになっていた。
『ガンッ』と鈍く重い音と共に石の一部が割れて表面が削れ剥がれる。
間髪を入れずに、二打目、三打目とリズミカルに次々と打ち込んでいく。
―ガンッ!ガンッ!ガンッッ!ガンッッ!ガンッッッ!!
衝撃で手が痺れるもグッと握りこみ打ち下ろす
―ガンッ!ガンッ!ガンッッ!ガンッッ!ガンッッッ!!
額から汗が噴き出て目に垂れて染みるのも構わず打ち下ろす
―――ガンッッ!ボロッッ!!!!?ガラガラガラッ
一瞬ふわっとハンマーが軽くなったので、前のめりに倒れそうになり慌てて足の重心を後ろに戻すとポスッと尻もちをつく。
目の前にあるのは、小窓一つ分くらい穴。
光が差し込み、ビュゥウウと強い風が部屋に吹き込んでくる。
「空きましたのね」
呆然と穴を見つめていたら、後ろからアディーレの声がかかった
後ろに来ていたことに気づかなかったようだ。
「アディーレ!!!!!」
立ち上がりアディーレに駆け寄り抱き着く。
腰に手がまわされ、体が宙に舞う。
「まったく……突然淑女に抱き着くなんて品がありませんわ」
悪態をつきながらも、その手は優しく額を撫でてくれてた。
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―――壁を壊してから数日。
アディーレに城を任せて、一人で城の外にでることに決めた。
本当は一緒に来てもらいたかったけれど、魔物は街に入れないと断られたから仕方がない。
残って城ですることがあるって言ってたけど、嘘な気がする。
色々やりたいことはあるれど、旅をしながら勇者の存在を確認しにいくつもりだ。
旅の資金は城の備品を商業ギルドで売ればなんとかなりそうだ。
アディーレの捜索で宝物庫も見つかったが、呪いの掛かった武器や装飾品や術具しか見当たらなかったと言っていたし。わからないものに手をつけるのは怖い。
地理は叩き込んでもらった。
城から森を抜けて、先ずはスタンリーの街に向かう。
そこから王都バッカニアまで馬車で二カ月、更に王都から山を越えて徒歩で10日北上した場所に勇者の故郷、ファスティア村がある。
まぁ、なんとかなるだろう。
感謝!!!読んでくださりありがとうございます!!!!!!