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目標


 一夜明け気持ちも落ち着いた。


 さてと。これからどうしたものか。


 今までのように、廃古城に居ても何も始まらない。

 三歳で放り込まれたこの城は、碌に掃除もしておらずお化け屋敷が如く蜘蛛の巣まみれて誇りまみれだ。

 唯一行き来する自室と図書室以外は、どうなっているかよくわからない。

 以前、一人探検で各部屋を回って歩いた時には散々危険な目にあった。

 内側からは扉があかない部屋や、部屋の壁一面が爪で引き裂かれ血の跡が滲む部屋。地下に続く階段も見つけたが下からは異臭がして降りるのを断念した。

 段々と新しい部屋を開けるのが怖くなっていき、いつからか城内探検も行かなくなっていた。


 幸い生き延びるための食糧は週に一度、ベッドサイドに置かれた転送ボックス内に、水とパン、そして干し肉がまとめて届くので食べるには困らなかったが、それもこれからは無理だ。

 日本食が恋しい。

 ブラッディリリー内でも作者執筆の怠慢でパンとスープと干し肉以外の食べ物は全く登場しなかったが、まともなご飯は存在するのだろうか。

 城の環境と食生活の改善が急務だな。それにまだ覚醒したばかりで魔法も使えないので指南役も欲しい。

 これからを生きる為にも勇者が実在するか確認にいかなければならない。

 存在すれば天敵になるのは間違いないのだから。

 気に入らない世界だからって受け入れなければ、痛い目に合うのは俺だ。

 前向きに検討と検証しよう。


 まずは手始めに城の地下に悪役令嬢のレイスに会いに行こう。


 記憶が正しければ、この城の地下牢には旧王子の元婚約者の公爵令嬢がレイスとして止まっているはずだ。

 旧王子が庶民に恋をして、その嫉妬に狂った公爵令嬢が暗殺を企てた罪でこの城の地下室に幽閉。そのまま死を遂げたが、死んでも死にきれずレイスになってとどまっているところを勇者によって浄化されハーレムの一員に取り込まれていた。

 魔王に覚醒した俺なら―――


 地下の階段を下りると、じっとりと纏わりつく重い空気に鼻を劈く匂いと嫌な空間広がっていて、足が震え引き返しそうになる。

 これではまるで監獄だ。

 地下牢とはこんなに広く作られるものなのだろうか?

 大小異なる牢が連なり、腐敗した血肉はないが牢内の散骨が目につく。

 背けたくなるの我慢し、奥へと進むと目的地を発見した。


 フードを深くかぶり顔は見えないが牢の隅に浮遊する彼女で間違いない。


(すぅう)大きく息を吸い、一息に声をかける


「はじめまして、俺はラッド。貴女を迎え入れにきました」


 ふわりと舞い優雅に振り返ると、俺を威圧しながらレイスは言った。


「ねぇ、わたくしに言ったのかしら?」

「もしわたくしに問いかけて下さったなら、もう一度おっしゃってくださらない?」


 レイスでありながらも悪役令嬢は気高く美しかった。

 目深くフードを被って顔こそみえないが、ピンと伸びた背筋に真っすぐと向き合う佇まいが何気ない所作が目を惹き、この場の雰囲気を飲み込みにくる。

 見定めるような、強く毒の含んだ声にぞくりとする。粗相でもしようものなら容赦なく攻撃を仕掛けると、有無を言わせない圧が肌にひしり。

 しかし、気圧されて尻尾を巻いてもいられない。

 生前は特権階級に育ち、教養が高く、魔術、学問、護身術、経営術と幅広い知識を兼ね備えていた人だ。

 今の俺に、彼女以上の最適な指南役はいないだろう。


「もう一度言うよ。俺はラッド。貴女を迎えに来たんだ。」


「迎えに来て頂かなくて結構よ。わたくしはここから出るつもりはありませんの」


「これでも?」


 更に圧の増す令嬢に、左手を見せつけるように差し向け、身体に巡る魔力を手の甲に集中させて黒百合の紋章を浮かび上がらせる。

 正直使い方はわからない。知識として知っていても使うとなれば別だ。

 うまく発動してくれよ。


 更に手の甲に魔力を籠める。

 すると、するりするりと糸状の黒い魔力が令嬢の首筋めがけて伸びていく。

 魔力の抜けが終わり、令嬢の首筋あたりに収束し黒百合の紋章が刻まれる。


「わかりましたわ」

「わたくしはアディーレ・ラフォレット。かつては公爵家の娘でした」


 ローブの裾をつまみ、浮遊しながらも柔らかなカテーシーをして令嬢は言った。


波旬誘惑はじゅんゆうわく』魔王の特殊スキル。

 魔物を魅了して従わせる能力は無事に発動したようだ。



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