誕生2
転生前のおっさんだった過去の記憶と現在の魔王として育ったラッドの記憶を擦り合わせいこう。
作中で魔王のエピソードは多数描かれていたが、登場回数はさほど多くなかった。
王の側室の子供として高い魔力値をもって生まれるも、出生直後に母の生命力を奪い殺しかけたため魔封じの布を巻かなければ抱き上げることも出来ず忌み子として隠されて育てられる。
魔王は王族の黒い歴史の詰まった廃古城をあてがわれて一人で育ったと書かれていたはずだ。
ラッドの状況と、ブラッディリリー内で魔王ラッドがおかれている状況が酷似しているのは理解した。
しかし幽閉されて育った7歳のラッドの知ることは少ない。
ラッドが生きてきた知識の大半は城内の本からの引用でしかない。
廃古城は王族の古城なだけあって本の数は膨大で、大半は旧書体の古語本や外交のない国の本、解読不能本、だれが書いたのかわからない論文など様々な本が収納されている。
日々を一人で過ごし、寂しさを紛らわせるように俺は大半の時間を図書室で過ごし知識を得ていた。
本の中でも黒百合の紋章が刻印された本がお気に入りだ。
過去の魔王が黒百合の紋章を手の甲に宿し、魔物と手を取り合う魔王が賞賛に描かれていて、誰もいない城は孤独なラッドには魔物とさえも仲良くなれる魔王が眩しかった。
どうにか魔王になれないかとラッドは毎日神に祈り過ごした。
おっさんの記憶から、あの本は魔物崇拝者によって書かれた王家としては禁書の類いだったのだと今なら解る。
魔物は悪で、世界の殲滅対象となっていたからだ。
けれども、ラッドは今まで知る由もなかったから仕方がない。
今まで我慢して、我慢して、泣き出したいのも逃げ出したいのも生まれて来た理由もわからないまま、ただ生かされるまま生きてきた。
おっさんの記憶が、ラッドとしての俺を苛ませる。
ここでは誰も何も教えてくれなかったせいで、ラッドは魔王を願ってしまった。
三十数年の記憶を引き継いでいるとはいえ
七歳の俺には色々荷が重い。
外の世界を知らずにいたとは言えども、ラッド自身が不遇な生い立ちだとは薄っすら気づいていた。
考えたくないが、勝手に頭が思考してしまう。
絶望のままに魂を差し出す、未来の俺の最後を。
───ポツリ。。。
一滴、膝に垂れた涙の音が響いて、そこからは涙が止まらなくなった。
今日、手の甲に黒百合の紋章が宿った。
もたらされたのは前世の記憶と、現状の惨めさを実感させる常識だ。
息が苦しい。震えて枯れた声が漏れる。
ぼとぼとと垂れる涙と鼻水が膝に広がる染みをつくり、自分の嗚咽する声が部屋に響き渡る。
泣くのはいつぶりだろう。俺は俺のために泣いた。
『ぁぁあぁああ嗚呼ぁあーーーーー』
苛立ちに悲しみ感情の渦をぶちまけ空に咆えて吐き出す。
今日、魔王ラッドが産声をあげた