3、飴と鞭(後編)
今日は天気予報で真夏日になるって聞いたから、アイスノンでタオルを冷やし、冷たいドリンクも多めに作った。
部員のみんなにそれぞれ渡し、次に陽くんに渡すと
「本当に咲良は気が利くよね。そういうところ好きだよ」なんて言ってくる。
・・・出た。飴。
深い意味はないんだろうけど、こういう風に好きって言われると、嬉しくて心臓が跳ねる。
陽くんは人の扱いが上手い。あたしが陽くんを諦めようと思うたび「好き」と言う。
そのたびにやっぱり陽くんが好きなことを自覚して諦められない。
それの繰り返し。
「よく続くなぁ。感心するわ」
「本当に星野は根性あるよな」
と声をかけてきたのは、テニス部の高瀬 和也と神埼 彰。
高瀬くんと神埼くんはテニス部でも一緒だけど、同じクラスでもある。他の部員達よりは仲が良かった。
2人ともイケメンの部類に入るけど、陽くん以外の男に興味がないあたしとは一緒にいて安心、面白いとよくかまってくる。
・・・安心ってなんだ。
高瀬くんも、神埼くんも陽くんほどじゃないけど、モテる。それぞれファンクラブまであるほどだ。高瀬くんは明るくて、甘いもの大好き、そして人懐っこい。1度懐に入れた人間にはとことん優しい。
神埼くんはもの静かだけど、中学生とは思えない色気みたいのがあり、のんびりしてる。いわゆる癒し系だ。
まあ、あたしの気持ちは2人だけじゃなく、テニス部員にはバレバレだ。まわりのみんなも応援はしてくれて、暖かい目で見守ってくれるのだ。あたしはいい仲間に恵まれているなとしみじみ思った。
朝練が終わって、みんなで教室に行こうとすれば、陽くんのロッカーからラブレターが何通も出てきた。日常茶飯事のことだけど、いつも不安になる。
誰かのものになるんじゃないかって。
「朝からそんな顔しちゃ駄目だよ。」
あたしの頭に手をポンと乗せて言うけど、気持ちは浮上しない。
「咲良が「俺のこと好きだから、誰のものにもならないで」って言えば全部断るけど、どうする?」
あっ、また出た。飴。
自惚れちゃダメだ、ドキドキしちゃダメだって自分に言い聞かすけど、
あたしは結局陽くんの言うとおりに言葉を言うのだった。