不穏
深夜にヒューお兄様夫婦はこっそりと家を出た。翌日に王家から公妾としてミーシャさんを寄越せって遣いがきたからマジでタッチセーフだった。ありがとうクリス様。陛下自身がミーシャさん狙ってるとかなんの冗談だ。私のお義姉様に手を出さないで欲しい。
「昔以上に横暴になっているな」
「やはり引き摺り落とすしかないのでは」
「前準備の期間が欲しいですね」
お父様たちも不穏度高くなって参りました。
ちなみに多分辺境までは人差し向けないと思う。今回の件で流石に貴族たちから猛反発が出る様になったので。
誰だって自分の妻や娘がそんな目にあう可能性は出来るだけ排除しておきたい。
魔力が高い人間の多い高位の貴族ほど今回の件では強い抗議をしている。我が家もそこに含まれている。
「せめて前王陛下が御壮健であれば、そう思わざるを得ませんね」
ジュードお義兄様がそう言う。
前王陛下か。
突然の病気で療養のために王都から離れた場所で静養してるって聞いたことがある。私が物心ついた頃には既に今の陛下が陛下だったものだからよく知らない。
「何にしてもよく知らせてくれた」
「最近は王宮の様子も掴みにくいとの事ですしね」
私に向いた視線に黙って頭を下げた。
「妖精がそんなに言うことを聞くものなのですね」
「それは契約者との関係性によるよぅ……」
ジュードお義兄様の感心したような言葉に、お兄様の妖精がのんびりと答える。
「ブルー」という名は彼が元々持っていたものらしい。いつも眠そうにしているブルーだけれど、アルお兄様が本気でキレたときなんかはキッと目が吊り上がる。
……とはいえ、危険がないときはこうやってのんびりと話すらしい。
「僕たちの力と人間の力はねぇ。関係がふかぁくなるほど、呼応するようにたかぁくなったり、ひくぅくなったりするんだぁ…。だからねぇ、もうねぇ。相性だよねぇ」
目を擦りながらのんびりと言うブルーになるほど、とジュードお義兄様は頷いた。
「うん。じゃあ僕には無理だね。だって僕は友人のように接したことはないし」
ドーベルマンのような妖精には小さなオレンジ色の羽が付いている。その頭をヨシヨシと撫でるその姿は完全に信頼し合う相棒なのだけれど。
嬉しそうに尻尾を振る妖精にちょっぴり穏やかな気分になった。