久しぶりの登校
何が正しいのか、なんて分からないけれど心惹かれる気持ちは嘘がつけない。
クラウス殿下とリオン様もこんな気持ちだったのかしら、と思うとやっぱり申し訳ないなって思うところもある。
「わたくしだって、ちゃんと告げてみなければどうなるか分からないけれど」
「大丈夫じゃないかなぁ」
「そうかしら」
ベルはそういうけれど、と少し不安に思いながらも贈られたオルゴールの音色に耳を傾ける。すると、「お嬢様時間でございます」とリズベットの声がした。
学院にはしっかり通っていないと。
寮はタウンハウスや王都に家のある人以外に解放されていて、授業も行われている。
魔法使いの力を養い、戦いに備えるという意味も少しはあると思う。
部屋を出ると、リズベットがリボンを直してくれてお礼を言う。身嗜みは大切だものね。どこを突かれるか分かりはしないし。
馬車に乗り込むと、アナスタシア様が乗り込んできて、続いてアルお兄様も乗ってきた。いえ別に人数的には乗れますけれど。
「一緒に行きましょう。アルと一緒なら道中も安心ですし!」
にっこり笑顔のアナスタシア様にアルお兄様が「ナーシャ、次からは一言言ってから行動してくれ」と告げる。
思いつきで来たの、という目でアナスタシア様を見れば、「だってアルってば振り回されるのは嫌いではないでしょう?」と少し甘えたような声で言った。
……下の弟妹に甘いアルお兄様と、甘え上手のアナスタシア様って相性がいいのかもしれない。
しかも、エメルダみたいな強烈さはないし。アレは甘えるって次元ではなかったものねぇ。
お兄様達と相乗りした馬車で学院に向かう。到着すると、ミーシャさんが手を振ってきた。軽く振り返すと、そのすぐ隣にいたヒューお兄様が近づいてきた。
アナスタシア様に引っ張られて学内へ向かったお兄様は最初はこちらをチラチラ見ていたけれど、自分の妖精に何か耳打ちされてアナスタシア様に向き直った。
「兄上とアナスタシア殿下が相性良さそうなのは意外だよな」
「ヒューお兄様だって、あれほど女性を避けていらっしゃったのに突然ミーシャさんと恋仲になったではありませんか」
アルお兄様もとても驚いていたのでヒューお兄様にだけは言われたくないと思う。
「運命っていうのは気がついた時に捕まえないとさ」
それ、エンディングでシュトレーゼ家の領地の花畑でミーシャさんを抱き上げながら言うセリフだった気がするのだけれど。
ウィンクしたヒューお兄様は格好いいけれど、わざわざこちらまで来たあたりで何か用事があるのはわかった。
「それで、ご用事は何かしら」
「馬車を借りるよ」
「……?別に構いませんけれど、お兄様も今来たばかりではなくって?」
「何ということはないよ。フィンが気にすることはない」
お兄様お兄様。
そのガンギマリスマイルで「何ということはないよ」は流石に無理があります。
あー、お兄様お待ちください!話を聞いて……。
「行ってしまわれましたね。シュトレーゼ嬢を抱えて」
バベルの言葉に少しだけ項垂れた。