お出迎え
お茶会を終えるとすごく疲れてしまった。ドロシーと一緒にとぼとぼと帰ろうとしていると、声をかけられる。
「いた!母上に呼び出されたって聞いたんだけれど大丈夫?」
「クリストファー殿下?」
「クリスでいいよ」
ふふ、と笑って朗らかに弾むような声で彼がそう言うのに苦笑した。たしかにそう呼んできたけれど、それは相手がクリスティナという女性であるということが前提だ。小さい頃ならともかく、今はあまり呼んではいけないと思う。
「恐れ多いことですわ。わたくしは一介の公爵令嬢。まだ殿下とそういう関係にはありませんし」
「そういう関係になったら呼んでくれるわけだ」
揶揄うような声音にムッとすると、彼は苦笑した。「ごめんね。少し浮かれているんだ」と言うクリス様の言葉は嘘という感じはしない。
「疲れた顔をしているのにごめんね。でも…心配だったんだよ」
自分の母親なのにちょっと辛辣では!?
少しだけそう思った後に、乙女ゲーでの妃殿下について思い出した。
過激派だったなぁ…あの人。
クラウス殿下のルートのバッドエンドの一つではナレ死の原因であったりもする。
陛下のやらかしのせいで彼女は恋愛や地位等に関してちょっと、と言っていいのかは分からないけれど厳しい方だった。
そういうわけで、心配の理由はなんとなく察してしまった。
「母上が悪い方だと言うのではないけれど、少し怖い人ではあるからね」
とはいえ、妃殿下の立場からすれば相当優しい言葉をかけていただいたのでなんとも言いづらい。
あと私の感情とかの問題もあるのでどんな話をしたかとかは、正直話しづらくはあるけれど。
「お嬢様、そろそろ」
ドロシーの目線の先に、お父様とそれに随行するバベルの姿が見えた。
どうやら少し遅くなったために迎えに来てくださったらしい。
それでお父様に気が付いたらしいクリス様は、そっと私の背中を押した。
小声でなにかを言っていらっしゃったようだけれど、しっかり聞こえなかったので首を傾げたくなったが、そこは丁寧にお辞儀をしてお父様の方へ向かう。
「遅かったね。意地悪はされなかったかい?」
「まぁ。そんな事はありませんでしたわ。けれど…少し疲れてしまいました」
差し出された手を取って、私は馬車まで大人しくエスコートされた。
もう今日は何にも考えたくない。