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召喚



攫われてくれないか、と言ってくれた人は今日付で国元に帰るらしい。

本当にあの一瞬が最後だったんだなぁ、と目を伏せた。


幼馴染で終われなかったのだから、こういう別れ方もまた、仕方のない事だろう。

いつまでも子どもではいられないのだ。わかっていたそれがなんだかとても寂しい。自分だけが置いていかれるようなそんな気がする。


ドロシーに髪を編まれながらそんな事を考えていると、ドアをノックされた。返事をすると、お父様が入ってきて少し気分が楽になる。



「お父様!おはようございます」



病気した時とか怪我した時以外で部屋に入ってくるのは珍しいなぁと思っていると、そっと抱き寄せられた。微かに冷気が漂って何事かと見上げると、「さすが私たちの娘だ。とびきり綺麗だよ」と言って微笑んだ。照れてしまうのでそういうのはやめてほしい。


それにしても、さっきの冷気は気のせいだったのかしら。

そう思いながらお父様を見ると、「やはりお嫁に行ってしまうのかい?婿を取って適当な爵位を継いでも良いんだよ。あまりにしつこいなら私がもっと怒ってきても良い」とぐらつく言葉を言ってきたけれどお父様コレ王命なのですわ。何ともならないのですわ。なんとかなるようならそれも一考してしまいますけれど!無理を通すと後が怖いですよお父様!!



「あの屑が生きているうちはフィンを嫁がせたくないなぁ」



なんだか実感が篭った言葉にちょっと泣きたくなる。陛下のヤバみどれだけなんですかお父様。

王城に呼ばれているからとおめかししているけれど不安度が高くなってきた。




両親と一緒に王城へ上がると、陛下の隣に妃殿下、そしてその前にクラウス殿下、リオン様、クリス様がいらっしゃった。



「よく参った」



気怠げに王座に腰掛けるその人は、明るい茶色の髪に宝石のような赤い目をしている。

現王陛下パーシヴァル・リディア。


恋に狂い、他者を不幸にしてでも自身の望みを通した男。

それでも仕事はできる男。

人の気持ちを解さぬ男。


様々な噂が噂を呼ぶ人だ。

陛下は不機嫌そうなお父様を見て口角を上げた。

うっわ。嫌な予感しかしない。



「知っての通り、我が子等には未だ婚約者がいない。その候補としてフィーネ嬢を呼んだ」



いや待って。なんだかちょっと嫌な予感がする。

殿下たちも少し厳しい顔をしている。



「先だっての治癒術師としての活躍、見事であった。その功績を以って我が子との婚姻を褒賞として認めよう」



褒賞での婚姻はいらん。いやマジで。笑顔が引き攣るのを感じた。



「嫌ならば仕方がない。ただし叛意の意思有りと考えざるを得ない」



ねぇ、お父様こいつマジやだ!という気持ちを込めてお父様を見ると、冷ややかに笑みを浮かべていた。



「構わないぞ。私は。喧嘩を売ってきたのはそちらだという自覚はあるのだろうな」

「はは、お前のその表情が観れるのならば喧嘩を売る甲斐があるというものよ!!」

「では、叛意云々は冗談ということでよろしいですね、陛下」



もう一つの空気を凍らせるような冷ややかな声

。それを発した人を見る。ふと見ると、その瞳には侮蔑の色が見えた。

その肩に留まる妖精は苛立たしげにパチパチと放電している。



「クリストファー、陛下に対してその態度は」

「そちらこそ、こちらの我儘で呼び出したグレイヴ公爵とその御令嬢に対する態度は何なのです」



スッと細められた目は妃殿下を射抜く。

溜息を吐いた妃殿下は「クリストファー」と嗜めるように名前を呼んだ。


彼を見ると、気恥ずかしそうにそっと視線を外した。

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